韓国検察は31日夜、朴槿恵大統領の友人で、法に反して機密文書を受け取っていた民間人女性の崔順実(チェ・スンシル)氏を緊急逮捕した。崔氏は国政介入などの疑惑の中心人物で、検察が真相解明に本腰を入れれば、朴氏は弾劾や辞任などの厳しい選択を迫られる可能性が高まる。

崔氏の国政介入は、対北朝鮮関係にも及んでいたと見られている。

素人集団の秘密会議

韓国紙ハンギョレは10月26日付けの「開城工団中断のミステリー、崔順実で解けるか」という記事の中で、2016年1月4日の核実験直後の7日、韓国政府が北朝鮮向けの拡声器放送の再開を打ち出した際の動きについて疑問を投げかけた。当日の午前まではそんな話はなかったのに、突如として出てきたというのだ。

続く同年2月10日の開城工団閉鎖も、7日までは国家安全保障会議で議論すらなかったのに、前触れもなく決まったと疑問を呈している。

ここに崔氏が影響力を及ぼしたのならば、それはどのような形で行われたのか。

驚くことに、崔氏と親しい財閥夫人や広告プロデューサー、彼女の愛人とされる元ホストが居並ぶ「素人利権集団」が、大統領にどのように指図するかを秘密裏に話し合っていたとの証言がある。

大統領は「邪教に騙された」

事実なら、朴氏は「操り人形」だったということになる。

朴氏と崔氏の関係は、40年にも及ぶ。もともとは、宗教家だった崔氏の父が朴氏に接近。唯一無二の相談役となり、それを崔氏が引き継いだ形なのだが、その隠微な関係に対する懸念は以前からあった。

そもそも、崔氏の父は仏教とカトリック、プロテスタントを渡り歩いたインチキ宗教家であり、韓国政界からは「朴槿恵大統領は崔氏親子の邪教に騙され、こんなこと(機密文書流出)をしたとしか思えない」との声も出ている。

筆者が最も懸念するのは、北朝鮮問題への影響だ。

歴史上最大のスキャンダル報道合戦が行われる韓国を前に、北朝鮮が黙っているはずがない。率先して北朝鮮包囲網を全世界に呼びかけていた韓国の体たらくに対し、北朝鮮メディアは嘲弄に近い言葉を連日投げかけている。

金正恩氏にとっては「渡りに船」だろう。恒例行事となった国連人権決議案の上程が迫り、11月と12月という、国連を通じ北朝鮮の人権問題が世界中でクローズアップされる時期に、少なくとも韓国政府は北朝鮮を叩く余裕が無くなる。また、「インチキ宗教家の南北政策には従わない」と強弁することも可能だからだ。

少なくとも、朴槿恵大統領任期中に南北関係が何らかの進展を見せる可能性は完全にゼロになったとみてよい。

朴槿恵政権はセウォル号沈没事故などへの対応を誤り、国論の分断を招いてきた。今回のスキャンダルが、韓国社会に今後、長きにわたる混乱をもたらすのは間違いない。朝鮮半島はいま、南北分断のみならず、なんの求心力もなくバラバラになってしまう危機に直面している。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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