金正恩党委員長が、公式登場、つまり現地指導する回数が、年々減っているという分析結果が明らかにされた。

韓国統一省は北朝鮮国営メディアの報道を分析。その結果、今年に入って金正恩氏が公式登場した回数は現時点で100回に留まっているという。ちなみに、ここ数年の年間登場回数は、2013年は212回、2014年は172回、2015年は153回だ。

つまり、年を経るごとに減少傾向が鮮明になっている。自己顕示欲が強い、平たく言うと「目立ちたがり屋」と見られている金正恩氏に何かが起こっているのかもしれない。

住民を見殺し

金正恩氏の登場回数が減少傾向にある兆候は先月から見られた。9月9日、5回目の核実験を行った。この時、北朝鮮メディアは核実験の成功は大々的に伝えたが、実験と関連する金正恩党委員長の動静を伝えなかったことは本欄でも指摘した。

金正恩氏の現地指導の回数は今月に入ってさらに減少する。7日の万景台(マンギョンデ)革命史跡地記念品工場、18日の柳京(リュギョン)眼科総合病院、そして29日の龍岳山(リョンアクサン)石けん工場の3回だった。昨年10月の16回に比べると、いかに激減しているかがわかる。

10月の現地指導の回数が減っているのは、台風10号(ライオンロック)の影響もあるのかもしれない。

8月末、北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)は台風10号によって甚大な被害に見舞われた。その直後にもかかわらず金正恩氏は第5次核実験を強行。水害復旧よりも核実験を優先させたこと、災害発生時の当局の不十分な対応をめぐって庶民からの怒りが噴出していた。過去の災害や大規模事故と同じく「人災」が隠れていたのである。

こうした世論の反発を恐れて被災地を訪れないという見方があるが、いずれにせよ冬が到来すれば、さらに登場回数は減少するとみられる。

トイレの代用品

今年はまだ2ヶ月残っているが、元々道路事情の悪い北朝鮮では冬が到来すれば、山間部の移動はますます困難になる。普通のトイレを使えない金正恩氏は、専用ベンツにトイレ代用品を載せていると言われている。本人にとっては多大なストレスを感じる現地指導になることから躊躇しているかもしれない。

もっとも考えられるのは、金正恩氏が米韓軍の「斬首作戦」に恐れおののいている可能性。斬首作戦とは、北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃だ。北朝鮮と韓国の間で全面戦争が勃発すれば、緒戦でソウルを「火の海」にされ、経済が甚大なダメージを受ける可能性がある。これを防ぐため、「北朝鮮が戦争を決断する前に、先制攻撃で制圧してしまおう」という考え方である。

米韓の斬首作戦はあくまでも、正恩氏に心理的圧力をかけるレベルと見られるが、1年前から継続的に論じられている。金正恩氏もここに来て改めてビビり、頻繁に現地指導することを躊躇しているのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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