北朝鮮で庶民を相手に売春を行う女性たちの、目を覆わんばかりの実情が明らかになった。覚せい剤の力を借り道端に立ち、わずかコメ数キロ分の現金を得るために、コンドームを着けない男性を相手にする。

外見と年齢で決まる金額

「恵山市の駅前広場には、夜になると多くの売春を持ち掛ける女性や客引きが現れます。一回の値段は中国元で20元(約300円)から30元(約450円)。客引きがいる場合には別途10元(約150円)を払います。行為をするのは近所の民家や宿屋の一室。男性はコンドームを着けません。客は軍人がねらい目です。駅前に降り立つ軍人は将校の場合が多く、出張のための現金を持ち歩いているためです。電車も予定通りに動かないので、時間をつぶす需要もあります」。

北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)第一の都市、恵山(ヘサン)市の事情に詳しい脱北者は25日、デイリーNKジャパンの取材にこう答えた。30元は約4万北朝鮮ウォン。コメ9キロ程度が買える。

コンドームは「ゼロ」

同様の証言は、韓国の有力日刊紙「東亜日報」で十余年にわたって記事を書き続ける脱北者のチュ・ソンハ記者も、今年7月、人気ブログ「ソウルで語る平壌の話」で明かしている。こちらは咸鏡北道(ハムギョンブクト)第一の都市・清津(チョンジン)市のケースだ。

「午後10時が過ぎると、水南(スナム)市場から道立劇場まで続く、長さ約4キロの大通りの脇道の暗がりの中に、女性たちがずらりと立ち並んでいます。みな、体を売りにきた女性たちです。その数は数え切れないほどです。価格は見た目と年齢で決まります。一般的には、中国元50元(約750円)ですが、40代以上になると30元(約450円)、若い女性は100元(約1500円)を受け取ることもあります。価格交渉がまとまると、近所の一般住宅に入ります。代金を取り、場所を貸す家も多いです。男性によっては、ツマミと酒を持ち込んで、女性と一杯やる者もいます。男性はコンドームは使いません」。

覚せい剤に頼る

いずれの場合でも男性はコンドームを着用していない点が特徴だ。元々、性に対し保守的な北朝鮮では、コンドームの着用率が低いことで知られている。WHOは同国における避妊具の普及率を69%としているが、筆者がインタビューした多くの男性のコンドーム着用率はなんと「ゼロ」であった。チュ記者のブログはこう続く。

「妊娠した場合には、女性が処置をするだけです。性病検査などはしないので、梅毒など、たくさんの性病が蔓延しています」

さらに深刻なのが、本来は恥じらいの多い北朝鮮の女性たちに、勇気をもたらす「覚せい剤」のまん延だ。ブログを続けて引用する。

「売春する女性の多くは、麻薬に酔った状態で道端に立ちます。『オルム(氷)』と呼ばれる麻薬(覚せい剤)は1グラム50元(約750円)程度で買えます。これを10回に分けて吸うんです。こうすることで、夜通し通りに立つことができるようになるだけでなく、見知らぬ男性の前での恥ずかしさも抑えることができるというのです」

「オルム」はメタンフェタミン、すなわちヒロポンのことだ。地域と品質によって異なるが、北朝鮮では1グラム(10回分)を50元から120元(1800円)で気軽に買うことができる。

北朝鮮で売春が、職を持てない女性の主要な収入源になっていることは、これまで本誌を通じ何度も述べてきた。女子大生から主婦まで、商売をする元手が無い者にとっては、唯一とも言える生計手段として完全に社会に根付いている。

だが、女性たちを待ち受けているのは「破滅」である。北朝鮮には麻薬中毒患者のための施設などなく、自慢の「社会主義無償医療システム」も、薬品はすべて市場で自前に入手しなければならないという、看板倒れに過ぎないのが実態だ。性病か薬物中毒で倒れれば、現金収入が絶たれ、死ぬしかない。

あらゆるセーフティネットのない社会、北朝鮮で、今日も貧しい庶民の女性は道端に立ち、無防備にその体を差し出しているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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