韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は19日、国会情報委員会の国政監査で、北朝鮮の金正恩氏がしばらく自制していた粛正を再開し、今年は9月までに64人が公開処刑されたと明らかにした。2011年12月に正恩氏が最高指導者になって以降では、処刑された朝鮮労働党、政府、朝鮮人民軍の幹部の数は100人以上に達するという。

人間をミンチに

正恩氏はいったいなぜ、かくも多くも幹部たちを殺すのか。国家情報院の説明は次のようなものだ。

「金正恩氏が残忍な粛正を続ける理由は、その多くが『無視されたから』だった」 「忠誠心の表し方が期待外れだったり、一部幹部の傲慢な態度などが28歳で権力を握った金正恩氏の『年齢コンプレックス』を刺激したようだ」

ちなみに、韓国語で言う「無視する」という言葉には、日本語と同じように「シカトする」との意味があるのと同時に、「バカにする」「軽く見る」との意味もある。

いずれにしても、正恩氏が「自尊心が傷ついた」と感じる場面が多くあったのかもしれない。

それにしても、そんな理由で人間をミンチにするような方法で殺す正恩氏の性格には、戦慄を覚えざるを得ない。

一方、このような恐怖政治を逆手に取り、金もうけに走るヤカラも北朝鮮にはいる。国政監査で国情院は、北朝鮮の人民保安省や国家安全保衛部などの監視機関もここ数年は金もうけにばかり走っている、と指摘した。

とくに保衛部は、公開処刑や政治犯収容所の運営を担当し、恐怖の象徴として金正恩体制の権力を支えている。恐怖政治が強まればもちろん、保衛部の出番は増えるし、権勢も強まる。

彼らはそれを利用して、罪とも言えない罪を犯した人々や、ときには無実の人々まで陥れ、裕福な親類縁者からカネをむしり取るのだ。

しかし、保衛部がそのような行動に走るのは決して、正恩氏への忠誠心故ではない。拝金主義のなせる業である。

正恩氏はいかに恐怖を煽ろうとも、部下や国民から忠誠心を買うことはできない。本人も、経験を重ねながらいずれはそのことに気付くのかもしれないが、彼の手はすでに血で汚れすぎてしまったし、今後もしばらくは同じことが続くだろう。

正恩氏が将来、どのような指導者に成長しようと、もはや「こちら側」の世界に、彼の居場所はないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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