AP通信によれば、米国務省のダニエル・ラッセル次官補は12日、米メディア国防担当記者たちとの朝食会で次のように語り、北朝鮮の金正恩党委員長の「即死」に言及した。

「彼(金正恩)はたぶん、核攻撃を遂行する強化された能力を持つことができるだろうが、そうなれば彼は即、死ぬことになる(Perhaps he’s got an enhanced capacity to conduct a nuclear attack and then immediately die.)」

「激太り」で健康不安

文脈としては、北朝鮮は核攻撃能力を持ったとしても、思い通りの結果を得ることはできない。核兵器開発は北朝鮮の安全保障と独裁体制を弱めるだけの愚かな試みである――といった趣旨である。

それにしても、米国の高官が正恩氏の「即死」にまで言及するのは異例だ。昨年の地雷爆発事件を機に、米韓軍部などが正恩氏に対する「斬首作戦」に言及するや、北朝鮮は半狂乱になって反発した。

今回、どのような反応を見せるか、今から見物である。

では、ラッセル氏の「即死」発言は、どのくらい真剣なものなのだろうか。現段階ではまず、何らかの具体的なプランに裏付けられたものではないだろう。

どちらかというと、正恩氏に心理的なプレッシャーを与えることに主眼を置いたメッセージだと思われる。残念ながら現状では、金正恩体制を土台から揺るがすことのできる外交手段は見つかっていない。仮に、いま32歳の正恩氏が国際社会の制裁を耐え抜き、核開発を進めながら年齢を重ねていけば、20年後には経験豊富な独裁者となり、しかも100発以上の核ミサイルで武装している可能性がある。

ただ、彼にはストレスから来る「激太り」などの健康不安説もあり、そちらに「期待」せざるを得ないという意味で、米国は消極的なポジションにあるとも言える。ラッセル氏の発言も、大きく見ればこんな状況から出てきたものと言えるだろう。

もちろん、米国とて手をこまねいてはいない。米韓政府は今、北朝鮮への人権攻勢を強めている。たとえば最近訪韓したサマンサ・パワー国連大使は脱北者たちと交流しつつ、北朝鮮の恐怖政治の残忍さについて、自らのSNSでも発信している。

こうした取り組みが積み重なると、人権問題は、いずれ米朝が対決局面を迎えるようなことになった場合、米国が何らかの行動に踏み切るための大義名分になる可能性がある。

12月の国連総会では一昨年と昨年に続き、北朝鮮の人権状況改善を求める決議も採択されるだろう。正恩氏は軍事と人権の両面で、米国はじめ国際社会のプレッシャーを受け続けることになる。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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