朝日新聞は7日付朝刊で、複数の日朝関係筋からの情報として「9月3日から4日にかけ、日朝両政府関係者が中国東北部の遼寧省大連市内で接触したとみられる」と書いた。日本側の目的はもちろん、日本人拉致問題を進展させることである。

虐待が横行

北朝鮮が核開発とミサイル発射の暴走を続ける中、安倍政権は拉致問題解決の糸口を模索しているが、制裁を強める国際社会の中で日本は「抜け駆けしていると受け取られかねない」(日本政府関係者)ために、慎重にならざるを得ない状況だという。

日本政府の苦しい立場が、よく伝わってくる話である。

しかしこの報道は、重要な内容が欠落している。人権問題である。拉致問題解決のためのハードルが核・ミサイル問題だけでないことを指摘せずして、日朝関係の現状を説明することはできない。

日本は近年、EUとともに毎年のように、北朝鮮の人権状況の改善を求める国連決議を主導している。その蓄積の上で7月、米国は金正恩氏に人権侵害の責任を問い、初めて個人として制裁指定した。

恐怖政治で国を支配する北朝鮮の体制に、人権侵害を完全に止めることなど絶対にできない。つまりそれを迫るということは、日本として金正恩体制を対決することを意味する。

その一方で、安倍晋三首相の対北外交方針は、「対話の窓口を閉ざすことなく、引き続き拉致問題の解決に向け全力を尽くす」といものだ。安倍氏の言う「対話」のベースは、北朝鮮による拉致被害者らの再調査などが盛り込まれた「ストックホルム合意」だ。そしてこの合意は、日朝間の懸案を解決したら国交を正常化しましょう、ということが前提になっている。

しかし、外交や安保と言えば何でもかんでも「米国追従」の日本政府が、最高指導者が米国から「人権犯罪者」と名指しされた国と、国交正常化や大規模な経済支援を前提とした対話なんかできるのだろうか。

米国をはじめ国際社会が問題視する北朝鮮の人権侵害は、外国人拉致だけではない。米国の制裁発表も、政治犯収容所について特に明記。子どもを含め8万~12万人が収容されており、拷問や性的虐待が横行していると批判している。

前述のとおり、こうした問題を国際的イシューとする上で、国連人権理事会などでEUとともに主導役となったのは日本である。その日本が、「われわれの関心事は拉致問題だけですから」などという態度を取ることは、今後もできないだろう。

こうした構図を変えることなしに、安倍政権に拉致問題を解決することは絶対に出来ない。マスコミはそろそろ、安倍政権の対北外交が抱える矛盾を、正面から批判すべきではないか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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