北朝鮮の金正恩党委員長は、台風10号(ライオンロック)により、甚大な被害が発生した北朝鮮東北部の復旧作業に10万人もの人員を投入し、朝鮮労働党創立記念日(10月10日)までに復旧を終えることを指示した。

労働新聞をはじめとする北朝鮮の国営メディアは「人民軍(北朝鮮軍)将兵が受け持つ住宅建設現場では(9月)28日現在、基礎のコンクリートの打設が98%に達した」と報じた。下に紹介する北朝鮮メディアが報じた写真を見るとあたかも復旧作業は順調に進んでいるように見られる。

9月30日に労働新聞が掲載した咸鏡北道慶源郡後石里の住宅建設現場(画像:労働新聞)
9月30日に労働新聞が掲載した咸鏡北道慶源郡後石里の住宅建設現場(画像:労働新聞)

復旧現場を捉えた写真

しかし、デイリーNKの現地取材の結果、現場の実態は北朝鮮メディアが伝えられる報道とは、かなりかけ離れていることが浮上した。

デイリーNKは9月28日、復旧現場の写真撮影に成功した。場所は咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)郡の復旧工事現場だ。

デイリーNK内部情報筋が撮影した咸鏡北道穏城郡の住宅建設現場。多くの人員が投入されているが、資材や機材がほとんどないことがわかる。(画像:デイリーNK)
デイリーNK内部情報筋が撮影した咸鏡北道穏城郡の住宅建設現場。多くの人員が投入されているが、資材や機材がほとんどないことがわかる。(画像:デイリーNK)

資材不足で工事が進まず

現場にはセメント、レンガなどの資材は見えず、早期完成を促す赤い旗ばかりが目立つ。

車両も、トラック2台と近隣の共同農場から駆り出されたトラクターぐらいしかない。また、手持ち無沙汰に立っているだけの人々の姿も確認できる。

洪水の後が残るアパートの前で復旧作業が行われている。(画像:デイリーNK)
洪水の後が残るアパートの前で復旧作業が行われている。(画像:デイリーNK)

金日成・正日氏の銅像に資材を投入

脱北者の証言によると、北朝鮮では家を建てる際に、レンガを縦に12個積み上げるのが一般的だが、写真では2〜3個程度しか見えない。

資材も機材もないため「工事を進められない」と現地情報筋が語る。

「資材は、金日成氏、金正日氏の銅像、革命史跡地に最優先で投入され、次いで鉄道、橋などのインフラに投入されている。住宅建設にも資材はある程度回されるが、絶対的に不足している」

作業員は左上に写っているテントに寝泊まりして、作業にあたっているものと思われる。(画像:デイリーNK)
作業員は左上に写っているテントに寝泊まりして、作業にあたっているものと思われる。(画像:デイリーNK)

作業員が強盗に走るケースも

情報筋によると、地面を掘って土を積み上げるところまではできたが、基礎工事をしようにもセメントもブロックもない状況だという。このため工事の進捗は非常に遅い。

北朝鮮当局は、金氏一家の「聖地」や、プロパガンダに関連する地域に資材を優先的に供給するが、その他の地域には人員を投入するだけで、何もできていないようだ。

当然のことながら、作業員に配給する食料も必要になるが、当局からの配給はないため、地元民が調達せざるを得ない。それができなければ、腹をすかせた作業員たちは、突如として強盗に豹変し、村を襲う。

こうしたなか、労働新聞は「奇跡を産む母は大衆の精神力であり、強盛国家の建設において新たな全盛期を切り開くための基本的な鍵は、大衆の心に火をつけること」だとして、精神論を煽るばかりだ。

「当局は10月までに住宅を完成させ、住民に提供すると宣伝しているが、それを信じる人は皆無だ」(情報筋)

中国の中央気象台によると、この地域の朝の気温はすでに0度近くまで下がっており、今月10日は氷点下になると予報されている。被災者にも作業員にも寒く辛い冬になりそうだ。

    関連記事