韓国のケーブルテレビ局「MBN」が、「北朝鮮の人々が欲しがるものベスト5」という興味深いニュースを報じた。
ベスト5としているが、もちろん北朝鮮で人気グッズのアンケート調査をできるわけもない。MBNによる独自調査と見られるが、まずはランキング結果発表を見ながら、それぞれのグッズの人気が高い背景について考察してみたい。
LINE使えば反逆者
MBNによると、第5位は「携帯電話」。北朝鮮で携帯電話ユーザーは200万人を突破したと言われている。とりわけ若者の間で、スマートフォンの人気は高い。また、北朝鮮当局が携帯電話サービスで外貨稼ぎをしていることから、比較的使用は、緩和されていることも、人気の高さの理由だろう。その一方で、金正恩氏は、カカオトークやLINEを使用する住民に対して「反逆者として逮捕せよ」と指示するなど、情報の風通しがよくなることに対しては統制を強めている。
コンドームにスキニージーンズ
第4位は、「練炭と石炭」。北朝鮮の冬は「凍土」と表現されるほど、酷寒に襲われる。冬になれば、この2つの価格は急騰。庶民たちのなかには、「飢えよりも寒さの方が辛い」と嘆く人もいるぐらいだ。冬場には凍死も頻発することから生きるための必需品でもある。
第3位は、なんと「コンドーム」。とくに、女子学生の間で需要が高いという。ただし、恋人との性行為ではなく、売春をするための必需品だからだ。金正恩党委員長は、「売買春を一掃せよ」との指示を下しているが、長引く経済難のため、売春行為の蔓延は収まる気配を見せていない。コンドーム人気は、経済難と変わりゆく北朝鮮性事情を反映しているともいえる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして第2位は「スキニージーンズ」。タイトなパンツルックは、世界的にも人気が高いが、北朝鮮では「資本主義的な遊び人文化」として取り締まりの対象になる。しかし、北朝鮮の若者たちは韓流ドラマや海外映画を通じて、世界のファッショントレンドを知っている。納得のランキング入りだ。
そして第1位は、「アスピリン」。鎮痛剤として知られるアスピリンは、北朝鮮では、脳卒中だけでなくガンにまで効く万能薬として、いささか誤解されて知られているが、大人気だ。また、人気が高い背景には、北朝鮮の無償医療制度が事実上崩壊していることもある。北朝鮮は表向きは無償医療制度を誇っているが、国営病院は診断はするが、処方箋だけを患者に与えるだけ。つまり、薬は自己負担という実質的には「有料医療制度」ゆえに「万能薬としてのアスピリン」の人気が高いようだ。
ランキング入りした5つのモノは、いずれも今の北朝鮮の社会状況や政治状況を反映している。さらに、金正恩体制が強要する価値観が、庶民にはまったく通用していないことも意味している。
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高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。