北朝鮮が5回目の核実験を行った9日、韓国軍合同参謀本部のイム・ホヨン戦略企画本部長(中将)は記者会見で、北朝鮮が核攻撃を仕掛けてきた場合「北の軍指導本部を含む指揮部を直接狙い反撃・報復する」と述べ、金正恩党委員長への攻撃を示唆した。

吹き飛ぶ兵士の動画

堪忍袋の緒が切れた、ということなのかも知れないが、韓国軍内から「金正恩をねらえ」との声が出るのは、これが初めてではない。

韓国空軍の戦略立案を担う空軍本部のユ・ジェムン戦略企画課長(大佐)は5月25日のセミナーでの発言に先立ち、前日に配布した資料の中で次のように説明し、北朝鮮指導部、すなわち金正恩氏らに対する「斬首作戦」の必要性を強調した。

「我が空軍は有事において、北朝鮮最高指導部の「物理的除去」を核心任務のひとつとすべきだ」

このように、北朝鮮指導部に対する「斬首作戦」を導入すべきだとの意見が、韓国軍の内部で台頭しているのである。そして米軍も、これに同調するかのような動きを見せている。

日本の報道だけを見ていると、相手に対して強硬なのは北朝鮮だけのように見えるが、韓国軍部にも「イケイケ」な空気はある。昨年11月、延坪島砲撃から5年目の追悼式典には朴槿恵大統領がビデオメッセージを寄せ、軍に対し「完璧な軍事対応態勢を確立」せよと述べた。式典に韓国大統領がメッセージを寄せるのは初めてで、北朝鮮への強気な姿勢を求める世論に配慮したものだ。

韓国側のこうした空気は、北朝鮮側が仕掛けた地雷爆発に端を発した8月の軍事的緊張を受けて高まってきた。当時、韓国側は自軍兵士の身体が地雷で吹き飛ばされる映像を公開。韓国国民の愛国心は高揚し、それに支えられた韓国政府との「チキンレース」で、金正恩氏は無残に敗北した。

正恩氏のストレス

韓国軍内部では今後しばらく、北朝鮮に対して強硬な声が大勢を占めることになるのではないか。

イム中将は記者会見で、北朝鮮指導部に対する攻撃では「同時に大量の精密攻撃が可能なミサイルなどを使い、精鋭特殊作戦部隊を用いる」と説明。これを大量反撃報復概念「KMPR(Korea Massive Punishment & Retaliation)」として紹介した。

韓国軍は今後、北朝鮮にミサイル発射の兆候があれば先制攻撃して制圧する兵器体系「キルチェーン」や、韓国型ミサイル防衛(KAMD)とともにKMPRを発展させていくという。

しかし、北朝鮮の本格的な核武装が現実のものとなりつつある今、完璧を期すことの難しいキルチェーンやミサイル防衛より、先制的な「斬首作戦」の方が有効であるとの声が、一部にせよ強まるはずだ。

これには、正恩氏もナーバスにならざるを得まい。そうでなくとも、独裁者として生活上のストレスを抱えており、不眠症説もある。もしかしたらこうした圧力の方が、彼にはこたえるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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