今回の代表団ヨーロッパ訪問の最も重要な目的は、金正日を国際刑事裁判所(ICC)に提訴する運動に、果して実効性があるのか確認することだった。
多くの人は言う。北朝鮮はICCの批准国ではないから、金正日をICCに提訴することは徒労だと。一理無いわけではない。
だが、今年ICCに起訴されたスーダンの大統領、アル・バシールのケースも批准国ではなかった。国連安保理がICCに起訴して、アル・バシールに逮捕令状が下った。そのため金正日も、国連安保理で起訴すればICCへの提訴が可能だ。しかしこれについても、中国が拒否権を行使すると言う人が多い。それも一理ある言葉だ。
北朝鮮がICCの批准国ではなく、国連安保理が金正日をICCに起訴するのも難しければ、金正日をICCに提訴しようとする運動は無意味なことなのだろうか。
そうではない。これが、今回のヨーロッパと国際形事裁判所の訪問を通じて筆者が得た結論だ。筆者もヨーロッパを訪問する前は、金正日をICCに提訴する運動にはあまり効果がないと思っていた。だが、ヨーロッパ訪問を通じて、その考えが変わった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ICC告発状の手続きを取る目標は、北朝鮮の人道に反する罪をICCで公認してもらうこと
筆者の考えが変わった決定的なきっかけは、ICCの捜査(preliminary examination)制度だった。私たち代表団が面会したICC検察部の諮問官が、ICCの捜査制度について説明してくれた。まず、どのような事件でもICCが受け付ければ、ICCはその事件に対する捜査を実施するということだった。そして私たちが北朝鮮の人権犯罪の事件について手続きをとったら、すぐに捜査を実施すると話してくれた。
ICCはこの捜査で、大きく2つの質問に対して結論を下すと期待される。まず、北朝鮮の収容所で行われている人権蹂躙は深刻なものなのか。または ICCの裁判事項である人道に反する罪(Crimes against Humanity)に該当するのか。次に、北朝鮮の人道に反する罪に対して、ICCには法的管轄権(Jurisdiction)があるのか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ここで2つ目の問題、すなわち北朝鮮の法的管轄権の問題については、多くの専門家が予想しているように、安保理が決議しなければICCが管轄権を持つことができないという判定が出る可能性が高い。北朝鮮がICC批准国ではなく、北朝鮮の人権犯罪の加害者が全員北朝鮮にいるからだ。
だがより重要なことは、1つ目の結論である。つまり、北朝鮮の収容所で行われている人権蹂躙は、ICCが「人道に反する罪」に該当すると判定を下すほど深刻なのかということだ。
もしICCが、北朝鮮の収容所の人権蹂躙は人道に反する犯罪だと有権の解釈を下せば、その波長は非常に大きいものになるだろう。人道に反する罪という規定まではないとしても、「北朝鮮の人権問題が深刻だ(serious or grave)」という判決が出ただけでもその意味はとても大きなものになる。北朝鮮の人権問題の深刻性を国際法的に公認することになるからだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面私たちがICCで告発状の手続きを取る目的もこの点にある。ICCが北朝鮮で起きている人権蹂躙に対して、最小値では深刻だという判定を出し、最大値では人道に反する罪に当たると公式の返答を聞くことこそ、私たちがICCに告発状を提出する目的である。
2010年に国連レベルで’北朝鮮の人道に反する罪に対する調査委員会’を構成すべき
もしICCが、北朝鮮の人権蹂躙が犯罪の水準に至るほど深刻だと公認してくれたら、私たちの運動はその次の段階に進むことができる。国連傘下の「北朝鮮の人道に反する罪に対する調査委員会」の構成を求めて、運動を展開することである。
最近、国連レベルで人道に反する罪に対する調査委員会(Commission of Inquiry)が構成された事例は2つある。1つはスーダンのダルフール事件で、もう1つはイスラエルのガザ地区の事件だ。
ダルフールは国連安保理の決議で、ガザ地区は国連人権理事会の決議で調査委員会(Commission of Inquiry)が構成された。調査委員会はそれぞれ3つ機関の発議で可能になる。国連安保理と国連人権理事会、国連総会だ。
ICCが北朝鮮で人道に反する罪が行われていることを公認してくれたら、私たちの金正日をICCに提訴する運動も、スーダンやガザ地区のケースと同様に国連レベルで「調査委員会」を構成する運動に発展することができる。
国連で調査委員会を構成するのは、早ければ2010年中に可能だ。遅くとも2010年12月の国連総会の決議文に、調査委員会構成の件を含めることができるからだ。
もし2010年に国連で「北朝鮮の人道に反する罪に対する調査委員会」が構成されたら、金正日が思いのまま行ってきた人道に反する罪の一つ一つの罪状が全世界に公開されるだろう。国連の名の下でである。これは、訴えるために非常に大きな力を持つだろう。
このように調査委員会が構成されて、金正日が行ってきた人道に反する罪の実態が一つ一つ公開されたら、私たちの次の目標は国連安保理に、金正日をICCに提訴する件を上程することになるだろう。ICCへの提訴は、早ければ2011年に可能だろう。今回訪問したイギリスやフランスは常任理事国として、金正日をICCに提訴する件の発議に協調する可能性が充分にある。
金正日をICCに提訴する件が安保理の議題に上がったら、私たちのその次の目標は中国の拒否権を阻むことである。スーダンの事例も中国が拒否権を行使せずに棄権したため、ICCでスーダンの現大統領、アル・バシールの逮捕令状を発行することができた。
もちろん、中国が拒否権を行使できないようにするのは容易なことではない。だが、完全に不可能だと断定することもできない。スーダンのアル・バシールの件はさておいても、中国は北朝鮮の核実験の後、対北制裁に対して拒否権を行使しなかった。したがって、私たちの努力如何によっては中国が拒否権を行使しない可能性も完全に排除できない。
もちろん、中国が拒否権を行使し続けても、金正日をICCに提訴する件が安保理の議題に上程されるだけでも、私たちの運動は大きな勝利をおさめることになる。
このように金正日を提訴する運動は、戦略を上手に練ってこそ、少しずつ少しずつ成功に向かうことができる運動である。そして、金正日政権に最大の圧力を加えることができる運動になる。すでに、スーダンの現職大統領に逮捕令状が出た事例もあるからだ。
早ければ年内12月までに、金正日の人道に反する罪を調査してほしいという嘆願書をICCに提出する予定。そうすれば、早ければ来年春頃には、ICCから北朝鮮が人道に反する罪を犯していることを確認する答弁書が送られてくるだろう。
答弁書が送られて来たら、来年12月の国連総会では必ず「北朝鮮の人道に反する罪に対する調査委員会」を構成しなければならない。そうすれば2011年には、国連安保理に金正日をICCに提訴する件を議題として上程することができる。
北朝鮮は2012年を強盛大国元年に定めている。だが、私たちの北朝鮮人権運動は、2012年を金正日に逮捕令状が下る歴史的な年として記念することができる。「2012年に金正日に逮捕令状を」という呼びかけに対して全世界が団結することを提案したい。<終り>