北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験で技術的な進展を見せ、核弾頭の運搬手段として日米韓を脅かす可能性が現実味を帯びてきている。

SLBMが完成しても、発射実験に使われている「新浦級」(2000トン)潜水艦は小さすぎてミサイルを1発しか搭載できないため、戦力にはならない。そのため韓国では、かねてから北朝鮮がSLBMを3発搭載できる3000トン規模の新型ミサイル潜水艦を開発中であるとの見方が出ていた。

そして7月22日、軍事情報分析会社のIHSジェーンズ(英国)は22日、北朝鮮が現行より大型の潜水艦を隠せる新たなドックを建設している、とする衛星写真を公開した。韓国の見方は、当たっていた可能性が高い。

東京・杉並の会社

もっとも、北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦に対しどのような野心を燃やしてきたかをつぶさにウォッチしていれば、いずれこのような日がやってくるのを予想することは、さほど難しいことではなかったとも言える。

とりわけ、日本政府にとっては。

なぜなら北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦開発の試みは、日本で始まったとも言えるからだ。

北朝鮮は1993年から翌年にかけて、ロシアから「くず鉄」名目でゴルフ級弾道ミサイル潜水艦(98.9メートル/排水量約3000トン)を輸入している。その取引を仲介したのは、東京・杉並区の小さな貿易会社だった。

この事実は当時、日本のメディアでも大きく取り上げられた。きっかけとなったのは、米国の情報当局のリークを受けた米紙の報道である。

そして、米国から強い要請を受けた通産省が取引に介入するのだが、北朝鮮とロシアの双方が諜報戦そのものの動きを見せ、すっかり煙にまかれてしまった。

日本の「スパイ」は飼い殺し

ちなみに、ジャーナリストの有田芳生氏(現参院議員)は当時の『週刊文春』誌上で、杉並区の会社が北朝鮮と関わりの深いある団体の系列企業であることを明かしている。

いずれにしても、諜報戦ではど素人に過ぎない通産官僚が、北朝鮮とロシアに一杯食わされるのは仕方のないことだったかも知れない。

問題は、日本政府があの時の経緯の洗いざらいを、すっかり忘れたまま過ごしてきたように見えることだ。

日本政府の諜報軽視は、当時もいまも変わらない。「スパイ」や「分析官」として優れた人材がいないわけではないのに、飼い殺しにしてしまっている。

そしてその結果が、今のこの事態なのだ。北朝鮮のSLBMに核弾頭が装着され、それを搭載した潜水艦が日本海を遊弋するようになったら、最も先鋭に対峙することになるのは海上自衛隊だ。集団的自衛権の行使に踏み込んだ以上、場合によっては、海上自衛隊が先制攻撃をする必要にすら迫られかねない。

日本政府だけでなくマスコミも、早くことの深刻さに気付くべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事