北朝鮮の国営メディアが、なんとも苦しい「負け惜しみ」を言っている。朝鮮中央通信は16日、「朝鮮半島の平和と安全を守り抜く金正恩元帥」というタイトルの記事を配信した。

北朝鮮メディアにとって、どんな形であろうと金正恩党委員長を称えることは最優先事項であり、こうした記事のタイトル自体は珍しくはない。問題は、その中身だ。

地雷で吹き飛ぶ兵士

記事は、昨年8月の南北対立を振り返っている。昨年7月に2人の韓国軍兵士が北朝鮮の仕掛けた地雷に接触し、足を吹き飛ばされるなどの重傷を負った地雷爆発事件に端を発した軍事危機だ。

当時、地雷爆発の瞬間をとらえた監視カメラ映像が一般公開され、事件の悲惨さが広く知らしめられた。そのせいか、韓国世論は、北朝鮮に断固として謝罪を要求する朴槿恵(パク・クネ)大統領の強硬姿勢を後押し。朴大統領は、北朝鮮から「遺憾の意を表明」という事実上の謝罪を引き出した。

ところが、今回の朝鮮中央通信の記事が伝えた事件の顛末は、かなり独りよがりの身勝手なものとなっている。

同通信の記事を要約すると、「米国と韓国が地雷事件をでっちあげたが、金正恩氏の戦争をも辞さない姿勢によって、戦争が回避された。さらに、北朝鮮の主動的な措置によって共同報道文が発表された」というもの。また、説得力をもたせるためか、韓国の北朝鮮専門家が「金正恩氏が今後の南北関係に対する方向を提示したと激賞した」としている。さらに、北朝鮮の「遺憾の意」については一言も触れず。

1年前の事件の顛末を完全に歪曲している。しかも政府機関などの名義ではない。タイトルも地雷事件を連想させずに、こっそりと朝鮮中央通信の一記事というスタイルを取っている。はっきり言って苦しい「負け惜しみ」としか読めない。

日本のアニメキャラで「地雷」踏む

金正恩氏は、地雷事件で傷ついた面子を、少しでも挽回しようとしているのかもしれない。しかし、過ちをいったん認めたにもかかわらず、みずから過去を蒸し返す今回の記事は、逆に「地雷を踏んだ」ように見える。

金正恩氏は、これまでも権威を高めようとしながら、裏目に出て、権威を失墜させたことが度々ある。

ある児童施設を訪れた正恩氏の写真の後ろには、ぬいぐるみが飾られていた。変な姿勢で飾られたそのぬいぐるみは、日本で最も知られた人気アニメ・キャラクターだった。この写真を通じて、外国文化を厳しく統制しているはずの北朝鮮に、日本のコンテンツがいかに深く浸透しているかが露呈し、嘲笑の対象になってしまった。

また、頻繁に現地指導に出かける正恩氏は、普通の人と同じトイレを使用できない。そして、その代替手段が、彼の権威を貶めているという内部情報が漏れ伝わってきている。

金正恩氏は、若くして指導者になったせいか、国内外から軽く見られないため、虚勢を張っているのかもしれない。しかし、その意気込みは空回りするばかりである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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