北朝鮮で常態化している人権侵害に対して、国際社会の注目が集まる中、脱北者の女性が、自らが受けた人権侵害に対して告発するケースが増えている。

女性ゆえに、性的な嫌がらせを受けるケースも多いが、彼女たちは、北朝鮮の人権侵害の実情を訴えるために、重い口を開き始めた。

セクハラという言葉すらない

韓国の北朝鮮専門メディア・ニューフォーカスは、脱北者女性がインタビューのなかで、次のように語ったことを明らかにした。

「北朝鮮で、性的暴行、セクハラという言葉は、聞いたことがない」

つまり、北朝鮮では「性的暴行」や「セクハラ」が女性に対する人権侵害であるという概念すら存在しないことを端的に表している。さらにいうなら、こうしたことが日常化しているということだ。

北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)市出身の脱北者のチャンさんによると、北朝鮮の保安員(警察官)たちは、なにかと次のような冗談を平気で口にするという。

「金がなければ体で払ってもらおう」

さらに、警察官たちが、若い女性を警察署に呼び出して、胸を触るなどの嫌がらせをしても女性は抵抗できず泣き寝入りするしかない。権力側である警察官を告発することによって、リスクを負うことを恐れているからだ。

ただし、セクハラなどの女性虐待に対するものではないが、ここ最近は、治安当局のあまりにも酷い横暴に対して、報復するケースも多発。その際、日頃の恨み辛みがたまっているせいか、せい惨な「復讐劇」となる。

公衆の前で軍人が…

チャンさんは、北朝鮮で「ソビ車(サービス車)」と呼ばれる個人運営のバスのなかで、次のような光景を目撃した。

「兵士が女性に対してセクハラをはじめたのです。女性が大声を出して嫌がったところ、兵士は逆ギレ。周辺の軍人たちと一緒になって、女性を恥ずかしめる言動を取ったのです」

北朝鮮で、電車の乗務員だったキム・ウンミさんは、「北朝鮮に女性はいません」という垂れ幕を掲げて行われた記者会見で、「電車の中で兵士たちが、女性乗務員を性暴行することは日常茶飯事でした」と証言する。

収容所内はより悲惨

別の脱北女性は、韓国に入国し、レストランで働きはじめたころに、店でセクハラを受けたが、北朝鮮ではよくあることなので、それほど気にしていなかったという。ところが、2年経つとセクハラに対する認識も変わり、反発するようになったという。

権力側の人間が、こうした人権侵害を行っているようでは、もはや国ぐるみの女性虐待と言っても過言ではない。そして、一般社会以上に閉鎖された拘禁施設や軍隊内での人権侵害がいかに悲惨であるかは推して知るべしだ。

女性虐待に限らず、北朝鮮の人権問題が国際的なイシューとなってから、まだ日は浅い。それにもかかわらず、筆舌に尽くしがたい証言は次々に出てきており、今後もこの流れを止めることは不可能だろう。そして、最終的にその責任を問われるのは金正恩党委員長にほかならない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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