中国と韓国が、弱冠32歳に過ぎない北朝鮮の金正恩党委員長に、手玉に取られている。北朝鮮の核開発によって安全保障上の利害の不一致を浮き彫りにされ、互いに嫌悪感を増幅しているのである。

昨年の一時期、北朝鮮は中国を「裏切り者」とまで呼び、両国関係は最悪とも言える状態にあった。

一方、韓国は北朝鮮がしかけた地雷爆発事件を受けて、対北強硬論が台頭。金正恩氏らに対する「斬首作戦」の導入が議論されるなど、「このままでは南北関係に未来はない」との空気が強まった。

そして今年1月、北朝鮮が4回目の核実験を強行したことで、中韓の安保利害の一致は強まったはずだった。しかし、米韓が米軍の最新鋭高高度迎撃システム(THAAD 〈サード〉)の韓国配備を進めるようになってから、状況は一変する。

7日の日曜日の午後4時、韓国大統領府(青瓦台)に、政府高官によるブリーフィングが行われるとしてマスコミの担当記者たちが集められた。現れたのは、金聲宇(キム・ソンウ)青瓦台広報首席秘書官。一言一句が朴槿恵大統領の言葉ととらえられる、最側近のひとりである。

この席で金秘書官は、語気強くこう述べた。

「中国は我々の純粋な防御的措置を問題にする前に、核実験と弾道ミサイル発射で地域の平和と安定を脅かしている北朝鮮に対し、より強く問題提起すべきではないのか」

中国がTHAADの韓国配備に反対するのは、その強力なレーダーが、北朝鮮ではなく自国やロシアに向けられると考えているからだ。

その論調は日々、激しさを増しており、3日には中国共産党機関紙・人民日報が朴大統領を名指し、「THAADを韓国に配備しようとする米国の戦略的意図を知らないはずはない」と正面から批判した。

金秘書官が日曜日に異例のブリーフィングを開いたのは、こうした論調に業を煮やしたからだ。

その後も、両国の舌戦は続く。人民日報系のニュースサイト・環球時報は8日、金秘書官の発言を取り上げ、「韓国のこうした態度は、THAAD配備が中韓関係を緊張させている責任を完全に北朝鮮と中国側に押しつけるものだ」とする学者のコメントを載せて再反論した。

とはいえ、これはまったく予想できなかった状況ではない。北朝鮮が弾道ミサイルの性能を向上させれば、米韓がTHAADの韓国配備に傾くのは明白だった。そしてそれと同じくらい、中露がTHAAD配備に反発するのも目に見えていた。

そんな中、金正恩氏は核ミサイル戦力の強化を明言し、発射実験を執拗に繰り返してきた。主要各国は、それに制裁論議や非難声明で対抗してきたが、正恩氏はまったく止める気配を見せない。そして、正恩氏が屈服するより先に、中韓が仲たがいを始めてしまったのである。

そして、それは政府次元にとどまらず、両国メディアや世論の中にまで「嫌韓」「嫌中」感情の芽生えがうかがえる。両国事情に詳しい複数のジャーナリストによれば、韓国の主要紙の編集幹部らは中国メディアとの共同事業を忌避。また、日中韓の学者たちによる交流事業では、中国からの参加者らが本来のテーマそっちのけで、延々と韓国批判を展開する場面が見られたという。

これでは、正恩氏の思うつぼである。

しかしそもそも、中露と米国(および日韓)が軍事的なライバル関係にある中で、北朝鮮問題で安保上の利害一致を見出し、包囲網を形成するなどという考え方自体に無理があるのだろう。

北朝鮮が主敵と考えるのは米国と韓国であり、中国やロシアではない。中露は米国に対抗するために北朝鮮を利用できると思えば、迷わずその選択をする。だから米韓や日本は、北朝鮮の核の脅威を除去するために中露が協力してくれるなどと、絶対に期待してはならないのだ。

北朝鮮の核の脅威をなくすためには、正恩氏の独裁を終わらせ、あの国にまったく別の体制を出現させねばならない。そのためにどんなに時間とコストがかかろうとも、本質的な解決方法は、もはやそれしかないのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事