北朝鮮の金正恩党委員長は7月、新しく建設された平壌中等学院を視察。朝鮮中央通信によればその際、次のように述べたという。

「ここ数年間、平壌市と各道に育児院・愛育園、初等学院、中等学院が雨後のタケノコのように建設されているが、これは朝鮮労働党の次代愛、未来愛、教育重視政策を貫徹するためのたたかいにおいて収められている誇らしい成果だ」

少女17人を強姦

ここで述べられている愛育園や中等学院はいずれも、孤児たちを対象とした養育・教育施設だ。正恩氏は、北朝鮮の国家がいかに孤児たちを大事にしているかを強調したかったわけだ。

しかし実際には、北朝鮮当局が子どもたちを何よりも大事にしているとは到底、みなすことができない。

北朝鮮では、親のいる子どもたちですら、様々な無償労働により搾取されている。子どもを狙った犯罪も、横行していながら表面化していないだけだと伝えられる。

そんな中にあって、守ってくれる親のいない孤児たちがどんな境遇にあるか、想像しただけで戦慄を覚えるというものだ。実際、昨年2月には中朝国境に近い恵山(ヘサン)市の中等学院の教師2人が、女子生徒17人を強姦していたことが明るみに出ている。

そしてまた、この同じ施設を舞台に、とんでもない疑惑が持ち上がった。この施設から、生徒たちが教師により数人ずつ連れ去られ、中国の臓器密売組織に売り飛ばされているのではないかというのだ。

秘密警察が関与!?

この疑惑を報じているのは、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)である。RFAがこの疑惑に着目したのは、今年4月30日に、中朝国境で脱北者支援を行っていた牧師が殺害された事件の取材過程でのことだ。

殺された牧師は、教会に逃げ込んでくる孤児たちから情報を得て、疑惑の真相を暴こうとしていたというのである。

牧師殺害の犯人は明らかになっていないが、北朝鮮の国家安全保衛部(秘密警察)の仕業ではないかとの見方が支配的だ。ならば、保衛部までが臓器密売組織とグルになっているのか?

これについて、保衛部の実態に精通した脱北者は「絶対にあり得ない」と断言し、次のように説明する。

「保衛部は、厳格な法執行機関です。自分たちがそのような犯罪に手を染めるような愚は、絶対に犯さない。もっとも、民間に潜り込んだ捜査協力者(スパイ)に便宜を図るため、彼らの違法行為を見逃すことはあります。それでも孤児たちの臓器を売るなんて……上層部に疑われただけで自分たちの命が危うくなりますよ」

RFAも、この辺の事情は理解しているようで、保衛部が組織ぐるみで関与したとは見ていない。また、孤児たちが行方不明になり、牧師が殺害された理由については、ほかにも様々な情報や見方が存在する。

しかし、臓器密売と関連している可能性がゼロとは言えない以上、報道により牽制しておく必要はあるだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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