北朝鮮では、自殺は「金日成・正日・正恩3代の指導者と労働党に対する背信行為」と見なされる。そして遺族は、理由を問わず、敵対階層に分類される。

では、それによって自殺は抑制されているのか?

世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、10万人あたりの自殺率(年齢調整なし)のランキングでは、北朝鮮は39.5人で1位。2位は韓国(36.6人)。日本は9位(23.1人)だった。WHO世界標準人口の年齢構成だとした場合の年齢調整後のランキングでは、1位はガイアナ(44.2人)で、北朝鮮(38.5人)はそれに続く2位。ちなみに、韓国は3位(28.9人)、日本は18位(18.5人)だった。

韓流ドラマが原因

WHOのデータは推計ではあるが、実態からまるでかい離しているものであるとも思えない。

デイリーNKも内部情報筋の証言から、北朝鮮国内で様々な理由で自殺が行われていることを把握している。つい最近では、韓流ドラマのファイルを所有していたことが当局に発覚し、取り調べを受けた23才の女子大生が、激しい拷問と、彼女を待つ10年間の地獄のような拘禁生活に絶望し、自ら命を絶った。

このケースもそうだが、北朝鮮で自殺が多発する理由として、北朝鮮特有の国家建設と社会システムがある。

大増産運動が生んだ地獄絵図

北朝鮮で5月に開かれた朝鮮労働党第7回大会では、200日戦闘と呼ばれる大増産運動が提唱された。しかし、こうした大増産運動は、生産量を無理やり増大させるばかりで、様々な弊害と後遺症を生み出す。

とりわけ、金正恩党委員長が力を入れている大型建設事業では、当局から求められた期日に間に合わせるため、「千里馬速度」「馬息嶺速度」などの号令のもと「速度戦」が繰り広げられる。そして、竣工を一般的な工事より大幅に繰り上げるため、安全を無視した無茶な工期短縮が行われ、その結果、悲惨な事故が多発している。

「動員参加」に抗しきれず

建設現場で多数の庶民が犠牲になっている一方で、北朝鮮当局は200日戦闘で成果をあげるため、ある女性を自殺に追い込んだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、金正淑(キムジョンスク)郡で、40代女性が首をつって自殺。動機は200日戦闘に伴う勤労動員を苦にしたことだった。

体調を崩して、勤労動員に参加できないこの女性に対して、保衛員(秘密警察)や保安員(警察官)は、頻繁に彼女の家を訪れ、「なぜ200日戦闘の動員に参加しないのだ」とプレッシャーをかけていた。女性は、これに耐えきれなかったという。

WHOは、北朝鮮に自殺が多い主な理由として、貧困、制約が多い環境に住んでいることによる精神的なストレスを挙げており、女子大生と40代女性の自殺は、いずれもあてはまる。つまり、金正恩体制そのものが、庶民を自殺に追い込んでいると言っても過言ではない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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