北朝鮮の山道で、バスが谷底に墜落する事故が起き、多くの死傷者が発生した。トンネルの通行料を節約するために、整備されていない旧道を通ったことが事故の原因と伝えられている。

川原の地獄絵図

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋の話として報じたところでは、事故が起きたのは5月中旬。東海岸の南北を結ぶ国道7号線の、咸鏡南道の端川(タンチョン)市と咸鏡北道の金策(キムチェク)市の間の摩天嶺(マチョンリョン)峠付でのことだ。

峠道を走っていたバスが谷底に転落し、乗客のうち26人が死亡、7人が重傷を負う大惨事となった。

北朝鮮では、このような大規模事故が多発している。

例えば、2013年10月には、国防委員会の庁舎新築の工事現場で崩壊事故が発生し、80人が死亡した。また、1989年4月には、平壌開城高速道路の建設現場で橋が崩落し、500人以上が死亡。現場の川原には無残な死体が散乱し、見るに耐えない光景が広がったという。

いずれも、インチキな行政に起因する人災である。交通インフラも安全とは言えず、とくに平壌と東海岸の羅先(ラソン)を結ぶ平羅(ピョンラ)線では、老朽化に起因する大事故が過去に2件も発生。超満員の客車が谷底に叩き付けられ、川の水が血で赤く染まったこともあった。

ドライバー金正恩

今回のバス事故にも、同様の背景がうかがえる。

事故現場となった峠道は、以前から事故が絶えなかった。そこで、当局は労働者を集め、10年前から全長3キロのトンネル掘削工事を行っていた。

今年4月に貫通したものの、まだ素掘りの状態で、完成までは程遠い。しかし、現地の工事指揮本部は、とりあえず車が通行できるようにし、1台あたり1万5000北朝鮮ウォン(約195円)の通行料を違法に徴収していた。

この通行料が高いとの理由で、旧道を利用する車が後を絶たない。事故を起こしたバスのドライバーも、悪天候にもかかわらず通行料を節約するために旧道を利用し、事故を起こした。

この峠道では、数年前にも平壌での会議を終えて地元に戻る咸鏡北道の市・郡の幹部を乗せたバスが谷底に転落し、数十人が死亡する大事故が起きている。ドライバーの間では、「魔の山道」として知られていた。

咸鏡北道の別の情報筋によると、摩天嶺の地質は硬い岩石で、落石のリスクは低いものの、地下水脈が多い。そのため、トンネル内部のいたるところから水が漏れており、セメント、鉄筋を使ってトンネルを完成させなければならない。

ところが、中央から資材が届かないのをいいことに、工事指揮本部は工事を中断し、金儲けに熱を上げていたというのだ。

北朝鮮の道路インフラは、極めて立ち遅れている。平壌と開城(ケソン)、元山(ウォンサン)、妙香山(ミョヒャンサン)などを結ぶ6本の高速道路があるが、咸鏡道に向かう高速道路はまだ存在しない。

元山から咸鏡南道の咸興(ハムン)を結ぶ高速道路の工事が行われていることは、衛星写真で確認できるが、今回の事故が起きた摩天嶺はそこからさらに北にある。今後も違法なトンネル通行料の徴収が続けば、峠道での事故もなくならないだろう。

最高指導者の金正恩党委員長は、自らハンドルを握るドライバーだとされる。ならばもう少し、国民のために交通の安全に気を遣ったらどうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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