北朝鮮が世界各地で運営するレストランが苦境に追い込まれている。

韓国の聯合ニュースによると、国連安保理で対北制裁が採択されて以後、海外の北朝鮮レストランの約3割が店を閉じたという。閉店に追い込まれる店舗は今後も増えそうだ。国際社会の経済制裁に加え、韓国政府が自国民に対して「利用自粛」を訴え、「お得意様」だった韓国人観光客の客足が急速に落ちたためだ。

美貌のウェイトレス人気爆発

それに加えて、レストランの目玉でもあった「美貌のウェイトレス」がいなくなる、いわば店にとっての「スター不在」も苦境の大きな理由と言える。なぜ、彼女たちが店から消えているのか。

北朝鮮レストランの美貌ウェイトレスは、現代韓国の女性には見られない古風でしとやかな立ち居振る舞いで、男女問わず、中年の韓国人を魅了していた。近年では、特に容姿端麗なウェイトレスの写真がネットで出回り、韓国の若者たちの間でアイドル並みの人気を博している例もある。

そんな彼女たちの多くは良家のお嬢様で「才色健美」のエリート。それゆえに、長く海外で暮らすうちに意識にも様々な変化が起き、自由を求めて韓国などへの「脱出」を決行する女性もいた。中には客として訪れた外国人と恋に落ち、「愛の逃避行」に走るケースもあった。

そして、4月には「北朝鮮レストラン従業員集団脱北事件」が起きる。一度に13人が脱北した事例は、これまになかったケースであり、世界に衝撃を与えたが、最もショックを受けたのは北朝鮮当局、そして金正恩氏だっただろう。この事件に腹を立てた正恩氏は保衛部に対し「君たちの本分は一体何かね」と叱責した上で「南朝鮮(韓国)当局に13人の即時送還を要求し、応じない場合には1000倍の復讐を加えろ」と指示。保衛部はこれを受け、史上最大規模の拉致工作チームを海外に派遣したとされている。

苦境の末、強制売春も

上海の「金剛山雪景」は今年6月に閉店し、吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉にある「千年白雪会館」は、建物オーナーとのテナント契約満了に伴い、9月までに閉店する見込みだと聯合ニュースは伝えている。

そして、こうした苦境を乗り切るため、一部の北朝鮮レストランでは、違法行為を行っているというのだ。中国の対北朝鮮情報筋によると、上海のAレストランは、女性従業員に建物の外でチラシ代わりのカードで客引きをさせている。

さらに、北京のBレストランは、個室で女性従業員が馴染みの客にお酌をして、身体接触、つまり「おさわり」を許すなど、キャバクラ顔負けの濃厚サービス化しつつある。また、エンターテイメント・ビザで中国に入国した未成年者を働かせ、お酌をさせるレストランもあるという。

経営側からすれば、苦境を乗り切るための苦肉の策かもしれない。しかし、女性従業員のなかには未成年者が含まれており、単なる業務サービスとして見過すわけにはいかない。そうでなくても、昨年12月には、売春を強要される状況に耐えきれず、ウェイトレスが失踪する事件も起きたという。

北朝鮮レストランの苦境は、金正恩党委員長が体制維持の切り札として固執する核実験とミサイル発射の強行が招いた。そのしわ寄せが北朝鮮レストラン、そして美貌ウェイトレスにまで及んでいるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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