韓流ドラマの時代劇を見ると、王に仕える医女(女性医師)が、かまどの前で薬を煎じるシーンがよく登場する。北朝鮮の病院では、今でもそんな前近代を地で行く光景が見られるという。

韓国の薬学専門ニュースサイト「デイリーファーム」は、脱北者で現在韓国で薬剤師を務めるイ・ヘギョンさんが、最近ソウルで開かれた「統一保健医療学会」で「北朝鮮の医療と薬務の生態系」という発表を行い、北朝鮮の薬学事情について語ったと報じた。

発表によると、北朝鮮では医薬品が著しく不足しているため、極めて基礎的な薬品だけを用いて治療が行われている。よく使われるのは、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなどの鎮痛剤、大黄などの止瀉剤、寄生虫剤、抗生剤などだ。薬品不足を補うため、漢方薬が使われることも多い。

アヘンが治療薬として

驚くべきは、覚せい剤をはじめとする薬物が「治療薬」のように使われていることだ。

例えば、アヘンは止瀉剤として使われる。アヘンには下痢を止める効果があるとされ、江戸時代に岡山新田藩や弘前藩で製造され、珍重されていた薬「一粒金丹」の主成分だった。

薬物が治療薬として使われるようになったのは90年頃からだ。1980年代後半までは旧ソ連(ロシア)から医薬品が入荷されていたが、ソ連の崩壊や90年代からはじまった経済難を要因として入ってこなくなる。90年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころは、国連からの援助物資で輸入された薬品を使用していたが、それ以外は手作りせざるを得ない状況だ。

例えば、1993年に水因性の伝染病が流行したが、治療薬が不足していたため、国連から支援物資として入ってきた抗生物質「レボフロキサシン」(クラビット)の錠剤を溶かして注射薬を作り、動脈注射を行っていた。

小麦粉を材料に

そして、抗生物質「オキシテトラサイクリン」(テラマイシン)に関しては、信じられない方法で手作りしていた。

なんと、小麦粉を原料に製造していたというのだ。

かまどの火にかけて、48時間もの間、火加減を調節しつつ煎じるという重労働だ。ちなみにこの薬、日本ではニキビの治療薬として薬局で売られているありふれたものだ。

深刻な薬品不足に拍車をかけたのは、軍の横暴だった。

軍は、90年代初め頃から様々な薬品を軍需用の「4号物資」に指定するようになった。供出させるのではなく、病院内に備蓄しておくことが求められた。

4号物資に指定された薬品は、たとえ患者が死の淵にあったとしても、軍の指示がない限りは、一切使用は認められない。管理が行き届かず紛失でもすれば、軍事裁判を受けるこになるという。

病院に来ても薬品がほとんどないことを知っている一般住民は、市場でペニシリンを買って、自分で注射することが多い。ペニシリンは、90年代後半に淋病患者が急増したことをきっかけに、ちょっとした病気でも使われるようになった。

国営工場製のものはほとんど軍需用に回され市中に出まわらないため、個人業者が製造したものを市場で買って使うという。

北朝鮮当局は「医療は無償」と宣伝しているが、実際は苦難の行軍を前後して無償医療システムは崩壊し、薬は有料、診察を受けるにもワイロが必要な状況だ。幹部も庶民も、国営病院を見限り、個人経営の病院を利用しているという。

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