韓国・ソウルで27日、国連北朝鮮人権事務所の開設1周年を記念するシンポジウムが開かれた。ここでは、北朝鮮で行われている重大な人権侵害について「誰に、どのようにして責任を問うか」といったことが話し合われた。

友人が大量失踪

そしてその中で、米国のNGO「北朝鮮人権委員会」のグレッグ・スカラチュー事務総長はまず、国家安全保衛部の名前を挙げた。保衛部は公開処刑や政治犯収容所の運営を担う機関であり、これは当然のことだ。

注目されるのは、スカラチュー氏が保衛部などと並び、金正恩党委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏に言及したことだ。

与正氏は、正恩氏の現地指導に頻繁に同行していることで知られる。労働新聞の写真などを見ると、いつも明るい笑顔を浮かべており、いかにも仲の良さそうな兄妹だ。また、その自然体の表情は、「話の通じる人物なのではないか」との期待を、一部の北朝鮮ウォッチャーに抱かせていたりもする。

とはいえ彼女が、北朝鮮において「普通の人」でないのは確かだ。昨年5月には、彼女の学生時代の友人らが、些細な言動のために「大量失踪」した事件もあった。

本人もそのことにショックを受けたとの情報もあるが、人権の見地からすれば、それで済まされる話でもない。

情報統制で銃殺

また、スカラチュー氏が与正氏の名前を挙げたのは、彼女の役職のためでもある。北朝鮮の内部情報筋によれば、与正氏は2012年2月に朝鮮労働党中央委員会の宣伝扇動部で政治行事を担当する1課長に任命され、2014年10月には同副部長に昇格したという。副部長と言えば、日本の中央省庁の審議官から事務次官級に相当する高級官僚だ。

また、宣伝扇動部は、国民の思想や情報の統制を司る部署だ。北朝鮮で外部の情報に触れた人々が、銃殺を含む厳しい処罰を受けているのは、周知のとおりである。


与正氏は、もしかしたら思想や情報統制ではなく行事の方を担当しているのかもしれないが、正恩氏の妹で副部長ともなれば、「知らない」では通らない。

与正氏はおそらく、今後も兄の側近として存在感を強めていくものと思われる。そうなるほどに、彼女に対し「人権侵害の責任を問うべき」とする声は強まらざるを得ないだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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