北朝鮮の最高人民会議常任委員会は24日、朝鮮人民軍で弾道ミサイルの運用を担当する戦略軍の創設日に当たる7月3日を、「共和国戦略軍節」に制定する政令を発表した。

このニュースを伝えた朝鮮中央通信は、故金正日総書記が1999年7月3日に戦略軍の前身である戦略ロケット軍を創設し、「自衛的核抑止力を強化するための強固な土台を築いた」と指摘。

それを金正恩党委員長が、「精力的な指導で戦略軍を小型化、精密化された核打撃手段を備えた強力な軍種に強化発展させた」としている。

周知のとおり、北朝鮮は22日、グアムの米軍基地までを射程にとらえると言われる中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射実験で、初めて「成功」と言える結果を出した。「戦略軍節」の制定は、正恩氏がこれに気を良くしてのものであると見て、まず間違いなかろう。

軍内で組織売春も

だが、正恩氏のこのような「ミサイル偏愛」は、朝鮮人民軍の全体としての弱体化に拍車をかけると筆者は見ている。

意外かも知れないが、北朝鮮では、生粋の軍人の立場はそれほど強くない。

北朝鮮には、2種類の軍人がいる。軍の思想統制や人事を掌握する「政治軍人」と、戦闘指揮を担う「野戦軍人」である。

そして、前者の代表格は正恩氏の最側近として知られる黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長であり、後者に含まれるのが李永吉氏や、まるで見世物のように虐殺された玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力相だ。

イスラエル軍と死闘

玄氏のほかにも、姿を消している野戦軍人は少なくない。

こうした状況をざっくりと分析するならば、叩き上げの野戦軍人たちが、元々は党官僚である政治軍人たちとの権力闘争に敗れ、出世の「肥し」にされているようにも見える。かつて、朝鮮人民軍がベトナムや中東で米軍やイスラエル軍と死闘を繰り広げ、国威発揚を担ったのも今は昔である。

党官僚出身の政治軍人たちの権力基盤は、あくまで正恩氏との「近さ」にあり、軍事組織の利害は二の次だろう。朝鮮人民軍の内部は、末端兵士らが栄養失調にあえぐなど惨憺たる状態にある。

薄れる関心

一方、正恩氏が戦略軍に愛情を注ぐのは、それが先端技術を駆使する部隊であるからにほかならない。

5月初めに行われた朝鮮労働党第7回大会の事業総括報告で、正恩氏は今後の課題の筆頭として「科学技術強国の建設」を挙げた。これに対し、「政治的・軍事的威力の強化」は一番後回しの5番目だった。

もはや、戦闘機や戦車を動かす燃料も満足に調達できず、部隊の多くが「土建部隊」「漁業部隊」と化してしまった朝鮮人民軍に、正恩氏はますます関心を失っていくのではないか。

しかし、朝鮮人民軍が巨大な武装組織であることに変わりはなく、その弱体化や軍紀崩壊が、いずれ金正恩体制を揺るがす事態を生む可能性は小さくなかろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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