「6カ国協議は死んだ」

北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射実験の「成功」が関係各国の衝撃を呼ぶ中、それを待ち構えていたかのように、北朝鮮の外交エリートが北京で開かれている国際会議でこう言い放った。

発言の主は、北朝鮮外務省のチェ・ソニ米州局副局長。北朝鮮の核問題を巡る6か国協議参加国による「北東アジア協力対話(NEACD)」で22日、対話への望みにトドメを刺すかのように冷たく言ったのだ。

人妻を強奪

チェ氏は2003年8月に6カ国協議が始まった当初から、外務省の「核タスクフォース」のメンバーとして関わっていた。通訳として、会議に参加したこともある。その横顔について、北朝鮮事情通が語る。

「チェ氏は、崔永林(チェ・ヨンリム)元総理の養女で、朝鮮労働党に入党した際には、金正日総書記が保証人となったほどのエリートです。北京とマルタに留学経験があり、英語も堪能。もの静かなインテリですが一時期、平壌の上流階級で噂の的になりました。既婚の身でありながら、現外相の李容浩(リ・ヨンホ)氏と男女関係にあったようなのです」

もっとも、このウワサは20年以上も前のものであり、現在の2人の関係がどうなっているかはわからない。だが、北朝鮮の権力層を覆う隠微な空気を象徴するエピソードではある。

金正日氏が若いころ、年上の人妻を権力でわが物としたことは良く知られている。

凄まじい女性遍歴

一方、息子の正恩氏にも、かつて年上の恋人がいたとする説がある。ポチョンボ電子楽団の元スター歌手で、現在は「北のガールズグループ」として有名なモランボン楽団の団長を務める玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏だ。興味深いのは、「玄氏は正恩氏の恋人ではなく、正日氏の愛人だった」とする情報があることだ。もしかしたら親子で1人の女性を取り合ったのか!? とも思えるが、どうやらそこまでの話ではないようなのだが……。

金正日・正恩親子ばかりではない。かつて対米交渉で名をはせたスター外交官、姜錫柱(カン・ソクジュ)氏は、少年時代に両親の仇を皆殺しにしたという特異な経歴の持ち主だが、女性遍歴もすさまじかった。劇団員などの若い女性をとっかえひっかえ愛人にしては、「適齢期」になると部下と結婚させていたという。

こうした情報の見過ごせない点は、このような人間関係が、北朝鮮の権力構造と微妙に結びついているということだ。

玄氏が団長を務めるモランボン楽団は正恩氏の寵愛を受けつつ、体制宣伝の重要な役割を担っている。

また、チェ副局長の「元恋人」である李容浩外相の父・ミョンジェ氏は、正恩氏の最側近の1人であるの李スヨン前外相の元同僚だ。この「外交ライン」の下でチェ副局長が出世街道に乗っているのは、現外相との「昔の仲」と無関係でないようにも思える。

北朝鮮には、「出身成分」と呼ばれる厳格な身分制度があり、出世のチャンスは誰にでも開かれているわけではない。権力層の隠微な人間関係の中に身を置くことが、成功の秘訣となっている側面もあるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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