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北朝鮮にも、もちろん銀行はある。しかし、利用する人はほとんどいない。全く信用がないからだ。

故金正日氏は、2009年に「貨幣改革」と称して、デノミを断行した。市場に奪われていた経済の主導権を国に取り戻すために、旧紙幣を全額銀行に預けさせ、その一部だけを新紙幣で引き出させる形にした。

多くの人が銀行に財産を奪われ、経済も社会も未曾有の混乱に陥った。そんな経験をした人々が銀行を信用するわけがなく、おカネを預ける人は「バカ」扱いされるほどだ。

現金支給が止まる

80年代以前、まだ計画経済が機能していた頃は、銀行も役割を果たしていた。

内閣は、経済計画に基づき、各工場に予算を配分し、「行票(ヘンピョ)」と呼ばれる小切手を使って送金していた。ヘンピョを受け取った工場は取引先に渡して材料を購入したり、銀行で現金化したりしていた。

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ところが、計画経済の崩壊で、各地方の銀行には中央から現金が支給されなくなり、ヘンピョの現金化ができなくなった。工場間の取引は現金で行われるようになり、銀行は無用の長物となった。

咸興(ハムン)出身の50代の脱北者によると、90年代中頃に成川江区域の朝鮮中央銀行には全く現金がなく、玄関は固く閉じられていた。職員はみんな辞めてしまい、市場で商売に専念していた。

それ以降、送金や貸出の役目はトンジュ(金主、新興富裕層)が営む両替商に取って代わられた。

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ところが、昨年12月に開かれた「第3回全国財政銀行イルクン(働き手)大会」や5月に開かれた朝鮮労働党第7回大会をきっかけに、北朝鮮の銀行が変わりつつある。

党大会では、朴奉柱(パク・ポンジュ)総理を労働党政治局の常務委員に昇進させ、郭範基(クァク・ポムギ)氏、吳秀容(オ・スヨン)氏、盧斗哲(ロ・ドゥチョル)氏などの経済官僚を労働党政治局委員と候補委員に登用するなど、経済に力を入れる姿勢を鮮明にしている。

また、イルクン大会では、地方での銀行設立など金融システムの再整備が議論された。

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その一環として、北朝鮮の銀行が最近になって送金や貸出業務を始めた。北朝鮮国内の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、各地方を結ぶネットワークを利用して、地方への送金も可能だという。

市場を漂う外貨

近年、金融サービスを担ってきたのは個人のトンジュ(金主、新興富裕層)たちだ。独自のネットワークを利用して送金業務を行ってきたが、国営銀行も金融サービスを再開した。

まったく役に立たなかった銀行が、ようやく機能の回復を始めたのだ。

北朝鮮には、公式には税金が存在せず、銀行が機能していなかったため、中央銀行が発行した北朝鮮ウォンも、海外から入ってきた外貨も一切国庫に入らず、半永久的に市場を漂い続ける状態となっていた。

北朝鮮当局は、市場での商行為を有料化したり、忠誠の資金などの名目で住民から事実上の税金を徴収したり、高級レストランやレジャー施設を建設して富裕層に使わせることで、流通する外貨を国庫に吸収するという形を取ってきた。

今回の銀行業務の正常化は、経済正常化に向けた動きと思われるが、北朝鮮の大衆が銀行に対して極度に否定的な印象を持っているため、利用がどれだけ進むかは未知数だ。