ここで当時の台湾の政情について詳しく分析する余裕はないが、有力な覚せい剤密造組織である「高雄グループ」が、警察関係者によって牛耳られていた事実は示唆的と言える。
かつての日本において、軍事利用という「国策」から享楽追求の道具に転じた覚せい剤の密造拠点は、暴力団と結託した情報機関要員らの「利権」として韓国に引き取られた。それがこんどは、対日接近という「国策」を選択した新政権によって否定されるや、「利権」を許容する権威主義を求めて台湾へと居場所を変えたのだ。
このように見てくると、後の北朝鮮ルートの台頭は、あまりにも当然の帰結のように思えてくる。
ここ数年、監視の厳格化によって、北朝鮮ルートの機能は停止しているとの見方があるが、覚せい剤製造の温床となるあの国の体質は、何も変わっていない。韓国の例にならうなら、真の意味での日朝関係の改善と北朝鮮の民主化以外、北朝鮮ルートを根絶やしにする方法は存在しないのである。