「姜氏は4人兄弟で、他の2人も出世した(1人は詳細不明)。兄弟は子供の頃、朝鮮戦争中に住んでいた村が米韓側の支配下に入った。この時、地元の右派による白色テロによって両親を惨殺されている。 難を逃れた4兄弟は、復讐の機会をうかがっていた。そして、村が再び北朝鮮側の支配下に入るや、手斧や鎌を持って白色テロの主導者たちの家に侵入し、家族もろとも皆殺しにしたという。まさに、筋金入りの反米ナショナリストであり、北朝鮮からすれば『革命戦士』なのだ」
極悪性スキャンダル
しかし、第1次核危機のときには小学生ほどの年齢に過ぎなかった金正恩氏にとって、姜氏の実績はさほど重要なものではなかったのかもしれない。国家葬儀委員会に、本人が名を連ねなかったことが、そんな印象を抱かせる。
一方、誰が葬儀委員長を務めるかといえば、抗日パルチザン2世の中でも札付き中の札付きと言われている崔龍海氏である。崔氏は、度重なる不正の発覚により、金正恩氏から厳しく叱責されてきた。1994年と2004年には革命化(思想教育)処分も受けている。
それだけでなく、権力を盾にして美貌の芸能関係の女性を性の玩具にするなどの醜聞にもまみれており、そのことは一般国民や外国にも知られている。
(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル)たたき上げの実力派で、金正日氏を輔弼(ほひつ)し続けた姜氏とは大違いだが、過去の「英雄」より現在のイエスマンを重用するのが、正恩氏のスタイルらしい。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。