韓国外務省は2日、中朝国境地帯で取材する韓国のメディア関係者らに、北朝鮮による拉致やテロ行為の可能性が高まっているとして注意を呼びかけた。同様の呼びかけは、3月末と4月半ばにも行われた。

中国にある北朝鮮レストランの従業員が集団脱北して韓国入りした事件を巡り、北朝鮮が「韓国による拉致だ」と主張していることや、中国が国連の対北制裁に加わったことなどを受け、北朝鮮が韓国国民を狙った拉致やテロ行為を起こす懸念が増していたためだ。

エロビデオ投入作戦

そんな中、先月30日には北朝鮮と国境を接する中国吉林省の山中で、脱北者支援を行ってきた中国朝鮮族の牧師が遺体で発見された。

首に刃物による傷があったとされ、殺害された可能性が高い。韓国では、「北の秘密警察の仕業」とする分析も出ている。

中朝国境には以前から、不穏な空気が漂っていた。

一昨年来、現地で活動していた韓国系の宗教関係者が姿を消し、そのしばらく後、北朝鮮の平壌で「自分は韓国のスパイだった」との告白会見を開く出来事が相次いでいる。

例えば、昨年3月に会見を行った2人の韓国人男性は、韓国の国家情報院(国情院)の求めに応じ、「有事の際に韓国軍が北朝鮮に浸透する際の取組みを『花豚事業』のコードネームの下に支援した」「国情院が作成した偽造紙幣や金正恩氏を冒とくする漫画、エロビデオや韓流映画を記録したフラッシュメモリーなどを北朝鮮に投入した」などと告白。

それに加えて、国情院の偽装活動拠点として中国・丹東にある企業や飲食店の名前を複数挙げている。

会見は言うまでもなく、北朝鮮当局によりお膳立てされたものであり、陳述も強制されたものである可能性が高い。

しかし、たとえば件の2人が名前を挙げた飲食店の中には、本物の国情院の秘密拠点が含まれていたとされる。

つまり、彼らがスパイであるにせよ、そうでないにせよ、北朝鮮と韓国は、中朝国境を舞台に熾烈な情報戦を繰り広げているということだ。

ちなみに、この2人については「北朝鮮からの骨董品の密輸などに携わって来た華僑のブローカー兄弟によって拉致された」との情報が、丹東などで取り沙汰されている。事実なら、まさにスパイ映画並みの攻防が繰り広げられているわけだ。

先述した吉林省の事件については分からないことも多いが、中朝国境には、張り詰めた空気が漂っているという。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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