実際、北朝鮮に住むデイリーNKの内部情報筋によれば、海外レストランを傘下に持つ機関の中にはすでに従業員らの撤収に動きだしているところがあるという。仮に同様の事件が起きてしまった場合、重い責任を問われることは避けられず、最悪ならば公開処刑すら考えられるからだ。
(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる)おそらく、「脱北リスク」を恐れる風潮は、レストランの運営部門に限られないだろう。もしかしたら、これまでは「役得」が多いとされてきた外貨獲得部門から、人材が遠ざかってしまうこともあり得る。そのような現象が続くと何が起きるかといえば、北朝鮮全体での外貨獲得能力の減退である。
金正恩氏が部下の歓心を買って権力を維持するためにも、また核開発やミサイル開発を続けるためにも外貨は必要だ。仮に、今回の集団脱北がそこを狙って仕組まれたオペレーションであるとすれば、実に手際のよい仕事である。
いずれにせよ、生半可な方法で金正恩氏の暴走を止めることはできない。秘密工作であれ何であれ、使えそうな手段はすべて動員すべきなのだ。
(参考記事:徐々にわかってきた金正恩氏の「ヤバさ」の本質)(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。