韓国に来て暮らしながら感じることだが、北朝鮮の事情についてよく分かっていないのに、ただ’韓国式’に考えてしまう人が少なくないようだ。
いわゆる’北朝鮮専門家’と言われる人の中にもそのようなケースが少なくない。もちろん、悪意があったり故意にしているのではないだろう。北朝鮮を理解していないから、仕方ないという気もする。しかし、北朝鮮に対する誤った認識が広まったら困る。
16日に出た対北朝鮮支援団体の「良き友」の北朝鮮ニュースの中に、このような文章があり、この機会に話したい。
良き友は16日に北朝鮮機関誌‘今日の北朝鮮’(72号)で、”北朝鮮政府が中央の検察所の検閲員らを全国に派遣して、党機関を含めた権力機関の幹部たちに対する検閲で、党の幹部たちが不安な日々をおくっていることが分かった”と伝えた。
機関誌は“5月に入り、中央検察所の検閲員が全国の主要都市に電撃的に派遣された”と伝え、“検閲の重要な対象は保衛部や保安署、裁判所、道の党、市の党、人民委員会など各単位の責任者及び女性同盟の職員全体だった”と明らかにした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、“今回の中央検察所の検閲は、現在困難な環境で動搖して変節する党の幹部が増える現象に対し、金正日総書記が悩んだあげく下した決定”と付け加えた。
機関誌を読めば、誰が見ても中央検察所が党機関や国家機関を検閲するのだと思うだろう。しかし、結論から言えば、北朝鮮では中央検察所が党機関を検閲することはできない。
中央検察所は韓国の最高検察庁にあたる。しかし、中央検察所が党機関、保衛機関を検閲するという話はでたらめである。言葉自体がつじつまが合わないのだ。こうした考え方は、明らかに韓国式の思考である。機関誌を書いた人は、中央検察所が韓国では最高検察庁にあたるから、党機関、保衛機関も検閲することができると、深く考えずに書いたように思われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮ではむしろ、中央の検察所が党機関の検閲を受けるようになっている。党幹部に対する個別の検閲や捜査は、検察や保安省などの法機関でできないということは、北朝鮮では常識中の常識だ。もし党幹部の不正が発見された場合にも、法機関はその事実を該当の道、市、郡の党委員会に報告することができるだけだ。
北朝鮮体制の基本は党-国家体制だ。党-国家体制という言葉は、党が国家を’指導’しながら、社会主義-共産主義社会に向かうというマルクス-レーニン主義に即したものだ。もちろん、今の北朝鮮は社会主義社会でもなく、金日成-金正日の首領主義社会だが、党が国家を’指導’するという基本原理は残っている。そのため、党が内閣と行政機関を指導するのだ。
中央検察所は国家機関だ。’国家’は党の’指導’を受けることになっているのに、どうして逆に、国家機関が党機関を’検閲’(指導)できるのか。では、党機関、保衛機関の不正に対する検閲はどのようにするのか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中央党には党中央委の検閲委員会があり、地方には道の党、市の党の検閲委員会がある。党中央委の検閲委員会は、普段は1、2人程度だけおり、党機関で特別な不正が発生した場合、組職の指導部を主として、有能な党の幹部たちが検閲委員会を構成する。
この党中央委の検閲委員会が、北朝鮮で最も’恐ろしい’検閲機関だ。この検閲委員会は党機関だけではなく、すべての国家機関を一気に処理できる。中央検察所は俗語で’子供’に過ぎない。今は先軍政治をとっており、軍人の発言権が強いと言うが、それでも軍隊までも一気に処理できる力を持った検閲が、まさに党中央委の検閲だ。
中央党から区域の党に至るまで、各党委員会には’行政府’という国家機関担当部署があり、司法、検察機関と保安省(警察)を含めた法機関に対するすべての監視と統制を引き受ける。
したがって、党の統制と指導を受ける検察が、党機関とその構成員に対する検閲を行うことは不可能だ。
「良き友」の機関誌は脱北者である記者にとっても、北朝鮮の内部消息を知る際に役に立っている。しかし時折、つじつまの合わない文章が見つかる。記者はそれが何か意図があるからではなく、北朝鮮について知らないからだと考えている。
特に、北朝鮮社会の出発は共産主義理論に基づいているが、共産主義理論の基礎を知らないから、’常識中の常識’も分からずに、韓国式に考えるのだ。
もちろん、韓国の人々が誰しも北朝鮮の社会の本質をよく分かっていたら、10年間誤った対北政策を続けるはずもないだろうし、また韓国社会が北朝鮮を正確に理解する日が来れば、北朝鮮問題もそれだけ早く解決されるだろう。その日がいつ来るのか、とても長く感じられる。