事故が起きたのは鯉明水(リミョンス)駅周辺。線路を通すために土を切り崩す作業を行っていたところ、雪解けで柔らかくなっていた地盤が崩れ土砂崩れが起きた。事故に巻き込まれた突撃隊(建設支援部隊)の隊員10数人が死亡した。この鉄道建設現場では、去年12月にも土砂崩れで労働者13人が死亡するなど、労災死亡事故が後を絶たない。
(参考記事:コチェビ出身の労働者ら「見殺し」…北朝鮮の鉄道建設現場で土砂崩れ)今年1月末には、体調不良にもかかわらず、ノルマ達成のために、長時間労働を強いられた労働者が、足を滑らせて、深さ500メートルの立坑に転落して死亡した。また、白岩(ペガム)郡の林産事業所では、氷点下30度の極寒で労働を強いられ、足に凍傷を負う事故が発生した。
(参考記事:北朝鮮、劣悪な労働現場で事故多発…転落事故から凍傷まで)もちろん、こうした事故に対して、北朝鮮当局は一切の補償を行わない。そもそも、発破により周囲の民家が吹き飛んだり、資材運搬用のトラックが転覆し多数の死傷者が出ても、一切補償しない。
(参考記事:北朝鮮、発破工事で民家が吹き飛ぶ…建設現場で事故多発)労災事故に対して何の措置も取らず「知らぬ存ぜぬ」の態度を取り続けてきた両江道当局だが、党大会を前にして労働者や住民の不満がこれ以上高まるのを恐れ、今回ばかりは道の幹部が出席しての葬式を執り行ったという。しかし、それだけで不満が抑えられるのかは不明だ。
(参考記事:北朝鮮「白頭山観光開発」に労働者を大量動員…賃金払わず現場からは不満の声)北朝鮮は、まがりなりにも労働者が国家の主人である社会主義体制を標榜している。しかし、国家行事という大義名分の下、多くの労働者が負傷し、命を落とす。そして、まともな保障は受けられないなど、資本主義以上に、労働者を搾取・抑圧している。こうした国家ぐるみの人権侵害のうえに成り立っているのが、金正恩体制なのだ。
(参考記事:徐々にわかってきた金正恩氏の「ヤバさ」の本質)(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。