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北朝鮮に住民登録という制度がある。日本の戸籍制度と住民票制度を合わせたような制度だ。日本の場合、戸籍や住民基本台帳に記載される個人情報は限られているが、北朝鮮の住民登録台帳に記載される内容は多岐にわたる。

本人の氏名、生年月日、出生地、現住所などはもちろんのこと、家族の誰かが日本の植民地支配に協力していたり、朝鮮戦争時に韓国軍に協力していた、勤め先で不倫して問題を起こしたなど、本人や家族に関する詳細がすべて記録されている。

北朝鮮当局は、この住民登録を元に本人と家族の成分(身分)を決め、監視の度合いなどを調整する。つまり、住民統治の基本だ。

しかし、この住民登録がいい加減に行われていたことが判明。大々的な調査が行われていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

慈江道(チャガンド)の情報筋によると、満浦(マンポ)市人民保安部(警察)の住民登録科が10日に渡って中央党の検閲(査察)を受けているという。査察を受けた理由は「出生届を出していない子どもが多い」「住民登録をいい加減に行っていた」というものだ。

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北朝鮮では子どもが生まれると、二重の出生届が必要だ。まず、親は人民班(町内会)の班長を通じて、末端行政機関である洞事務所に届け出る。そうすると、子どもは人民委員会(市役所)に登録される。同時に親は、人民保安部の住民登録課に出生届を出して「出生証」を受け取る。

人民委員会への登録がなされると、太陽節(金日成氏の誕生日)や光明星節(金正日氏の誕生日)にはお菓子セットなどの様々な贈り物が受け取れる。一方、人民保安部住民登録課に出生届を出しても何の得にもならないので、出生届を出さない親も多いと情報筋は述べた。

これに対して当局は、未登録児童の調査を行うと同時に「適時に出生届を出さない者には30万北朝鮮ウォン(約4500円)の罰金に処す」との布告を出して、届け出を促している。30万ウォンと言えば、コメ60キロ分に相当するかなりの額だ。

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しかし、今回の査察には別の理由があるのではないかと見られている。

今回査察を行っているのは、中央党の「312常務」だ。この組織は、2014年3月9日に行われた最高人民会議代議員選挙に投票できなかった未登録居住者、離職者などを徹底的に監視せよとの金正恩氏の3月12日の指示に基づき作られた。

徹底的な監視が行われるのは、未登録者(行方不明者)が脱北した可能性が高いためだ。家族に脱北者がいると、監視が強化されるばかりではなく、成分が悪くなり、出世もできなくなるなど様々な不利益が生じる。

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住民登録課はそこに目をつけ、脱北者家族から多額のワイロを受け取り、脱北者が行方不明者ではなく死亡者であると書類を偽造することに加担していたのではないかという見方が出ている。北朝鮮の住民監視制度の根幹を揺るがす事態だが、実はこのようなことは北朝鮮各地で行われている。

その手口について、実際に住民登録課に勤めていた経験のある脱北者が詳しく証言している。 2008年に脱北して現在は韓国で暮らしているキム・シヨンさんはかつて、ある市の人民保安部住民登録課で勤務していた。

ある住民は、祖父が植民地時代まで地主で、朝鮮戦争の時は米軍や韓国軍に協力していたとの内容が、住民登録台帳に記録されていた。そのため、いくら本人に能力や財力があっても成分が「敵対階層」に分類されているため、出世は全く見込めない。

そこで、住民登録課の副課長とグルになって、今までの家族の記録をすべて抹消し、本人は労働者の息子で、大学を出て、軍隊でも職場でもまじめに働いているとの書類を偽造した。副課長は日本円で5万円のワイロを受け取った。今ではワイロの相場が1000ドル(約11万3000円)まで上がっている。

個人の住民登録に関する書類は、必ずバックアップを取ることになっており、慈江道の前川(チョンチョン)郡にある秘密アーカイブに収められている。戦争が起きて、各役場に配置された記録が失われることに備えた措置だ。当局の執念を感じさせるが、住民統制は戦争ではなく、カネの力で崩れつつある。