国際制裁と米韓合同軍事演習で、国内に広がる「戦争への不安」によって、北朝鮮の庶民達の間では、物資の買い占め、または売り惜しみが広がっている。さらに、様々なデマが飛び交う状況にまで陥った。当局はこうした不安心理の沈静化に躍起になる一方で、不安心理を煽っている。
今月4日、北朝鮮は国連の経済制裁に対して「断固とした対応措置で抗う」という政府報道官の声明を発表。両江道(リャンガンド)の情報筋によると、その直後から保衛部(秘密警察)や保安署(警察署)に「戦争に備える万全の準備をせよ」という指示が下された。
また、「元帥様(金正恩第一書記)が、戦闘服姿で軍を視察を行ったことは、情勢が尋常ではない状況だということだ。戦闘的な雰囲気の中で生活せよ」と念押しされたという。
保安署の関係者は、この情報筋に「ともかく戦争をするというのがお上(金正恩氏)の決心」だと述べたという。
(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)北朝鮮は、これまでも何か起こるたびに戦争ムードを高めてきた。その狙いは、国内統制の強化と内部結束だ。「戦争が起こる」と煽ったうえで、「元帥様の卓越した領導で戦争を回避した」というオチを付けるいつものやり方だ。しかし、こうしたプロパガンダは、あまりにも頻繁に繰り返されるので、もはや効果はない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面いずれにせよ、「戦争の準備をせよ!」という指示に基づき、保安署や教導隊(民間軍事組織)も、武器庫の点検を行うなど、24時間勤務となった。激務が続きクタクタになった保安員の間からは「国際社会の経済制裁で経済が崩壊し苦難の行軍(大量の餓死者を出した90年代末の大飢饉)が再来するのなら、いっそのこと戦争でも起きたほうがいい」といった反応が飛び出す始末だ。
「戦闘的な生活を維持せよ」との指示は、一般住民にも出されている。しかし「腹が減っては戦はできぬ」「苦難の行軍がまた来たらどうするつもりか」などと、冷淡な反応が返ってくるという。
さらに、戦争準備の指示の裏には、経済制裁による住民の動揺を抑えることに目的がある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局としては、準戦時状態を宣布して動揺の可能性を完全にブロックしたいところだろう。しかし、戦争準備に人員を投入すれば、5月に開催予定の朝鮮労働党第7回大会に向けた「70日戦闘」の方が手薄にならざるをえない。それを回避するための窮余策として、今回の指示を出したものと情報筋は見ている。