どちらかと言えば、北朝鮮との全面貿易禁止を打ち出した日本政府の独自制裁を受けて、中古タイヤやニット生地、冷凍タラ、壁紙、ファンデーションなど、いささか「小粒」な製品の不正輸出事件の摘発に力を振り向けてきた。その理由は第1次安倍内閣のときに「何でもいいから片っ端から北朝鮮の事件をやれ!」との号令がかかったからだ。
(参考記事:総連捜査の深層…公安が「マツタケ」にこだわる理由とは!?)そして、その裏にはもちろん、警察庁キャリアの「得点かせぎ」があった。時間と人手のかかるスパイ事件より、追跡が比較的容易な不正輸出事件を数多く挙げることで、出世につなげてきたのである。
(参考記事:対北インテリジェンスの現場を疲弊させる「内なる敵」)そしてその結果、北朝鮮に対して最も強硬であるはずの安倍政権の下で、外事警察の捜査能力が低下するという皮肉すぎる現象が起きた。今後、日本の対北インテリジェンスはどうなってしまうのだろう、と憂えていたときに、今回の事件である。どこかで何らかの変化が起きたのだろうか……と、そんなことを考えていたら、社会部記者から次のような指摘を受けた。
「デイリーNKジャパンが、『対北情報戦の内幕』という連載で、外事警察の内情についてケチョンケチョンに書いたじゃないですか。あれ読んで激怒した捜査幹部が『高英起ごときにこんなこと書かれて、黙っていられるか!』と言って、奮起したんです」
真偽のほどは分からないが、とりあえずこういう噂があるということだ。筆者は何と言われようとも結構なのだが、重要な事実関係を指摘しておきたい。あの連載は私が書いたのではなく、ジャーナリストの三城隆氏の手になるものである。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。