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かつて、日本の学校の片隅には、御真影(天皇と皇后の写真)が祀られた「奉安殿」という小さな祠が立っていた。それを火災や空襲から守るため、命を投げ出した人々は「英雄」とされた。

一方、現代の北朝鮮の公共施設や各家庭には、金日成氏と金正日氏の肖像画が祀られている。災害から命を投げ打って守りぬいた人には「英雄称号」が与えられるところも、戦前の日本と同じだ。

今年の8月、北朝鮮東海岸の羅先(ラソン)を襲った水害の際に、肖像画を守ろうとして亡くなった住民が続出。地域の人々にショックを与えている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は語る。

「行方不明者の捜索中だった10月下旬、ある女性の遺体が発見された。すぐそばには、女性の子どもを抱いたまま亡くなった、祖母と思われる老婆の遺体もあった。女性の懐からは、ビニールでぐるぐる巻きにした肖像画が発見された」

「自分の子どもの命よりも肖像画を守ることを優先した」女性の話は街全体に広がり、住民に衝撃を与えた。国の配給システムや無償医療制度が崩壊した今、北朝鮮住民の国や指導者に対する忠誠心はかつてなく弱まっている。住民たちは、口には出さないが「気の毒だけど、何もそこまでしなくても…」という目で見つめているようだ。

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北朝鮮では「首領の権威を命をかけて守らなければならない」「火災や水害の際には、肖像画をいの一番で守らなければならない」との教育がなされており、守りきれなかった場合には「人民の義務を捨てた」として処罰の対象となりうる。

この女性も処罰を恐れて肖像画を守ろうとしたようだが、同様の理由で犠牲になった人が多数発見された話を聞いた情報筋は「偶像化教育を恐ろしさを改めて感じた」と述べた。

北朝鮮で幹部を務めていたある脱北者はこの話を聞き「羅先の住民は韓流ドラマや外国の情報に接する機会が多いのに、未だに自分の子どもより肖像画を大事にするとは理解に苦しむ」「外の情報に接する機会が多いとしても、洗脳から抜け出すのは容易ではないことを示す事例」と述べた。

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現代日本人の価値観では理解し難いことではあるが、日本でもわずか70年前までは同様の教育がなされ、同様に命が軽視されていた。

ちなみに、今回犠牲になった人々の事例の「美談化」は、まだ行われていないという。その理由について情報筋は次のように分析した。

「まだ見つからない遺体が多いなか、肖像画を懐に抱いて死んだ人が一人や二人ではないことを宣伝すると『対処が遅れたから犠牲者が増えた』という話が広がりかねないと当局は判断しているようだ」