約1年間、姿を消していた金正恩第1書記の側近が、かつての面影がうかがえないほどの激ヤセぶりで復帰した。

【参考記事】動静が途絶えていた金正恩氏の側近が激ヤセして復帰

国防委員会設計局長の馬園春(マ・ウォンチュン)氏だ。

金正恩氏は就任以来、「北朝鮮式ハコモノ行政」に力を注いできた。馬園春氏は設計局長という立場で、金正恩時代を代表する遊園地やスキー場などレジャー施設の設計、資材の調達、建設のすべてを統括。さらに、2013年の張成沢処刑にも深く関わった側近中の側近と言える人物だ。

しかし、馬氏は昨年11月以降、公式の場から一切姿を消す。そしてこれと同時期、金正恩氏に異議を唱えたとして15人の当局者が大口径の高射銃で処刑された場面が、衛星画像によって確認されている。

【参考記事】北朝鮮の公開処刑、衛星写真で確認…アジアプレス報道と時期・場所が符合

当初、馬氏もこの粛清の波に飲み込まれたとの説が有力だった。

金正恩氏の右隣が馬元春氏。
金正恩氏の右隣が馬元春氏。

動静が途絶えたからといって、必ずしも粛清、もしくは処刑というわけではない。しかし、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)氏でさえも無慈悲に粛清、そして処刑する金正恩氏だけに、どんな側近であろうと容赦なく「切る」と思われた。

実際、金正恩氏は今年5月、これも側近である玄永哲前人民武力相を大口径の高射砲で文字通り「ミンチ」にして処刑。6月には、スッポン養殖工場を視察して、現場管理の不備に怒り狂い(この様子は映像でも見られる)、同工場の責任者を銃殺した。

【動画】金正恩氏、スッポン工場で「激怒の現地指導」

韓国の情報機関・国家情報院は、金正恩氏がこの4年間で約100人の幹部を処刑、しかも「政治判断」による処刑ではなく「感情に基づいた即興的な処刑が多い」と分析している。周囲の幹部に対して、尋常ではない言葉で恫喝を加えているともいう。

【参考記事】金正恩氏、幹部に「処刑されたいのか!」と恫喝

このような金第1書記の恐怖政治を見る限り、馬園春氏の立場も絶望的と見られていたが、2月には「革命化」を受けているとの情報が浮上した。革命化とは、一時的に地方の農場や工場へ送られ思想面での再教育を強いられる、ある種の島流しのような処分で、場合によっては復帰もあり得る。そして先々月、大方の予想よりも早く馬氏は中央に復帰した。

ハコモノ行政で成果をあげるのが大好きな金第1書記からすれば、建築関係のプロフェッショナルである馬氏は必要不可欠な人材だったのかもしれない。

ただし、何事もなく復帰とはいかなったようだ。

今月1日の労働新聞は、少年宮殿を現地指導した金正恩氏と随行した馬園春氏の写真を1面で掲載した。それを見ると、馬園春氏は昨年と比べると明らかに激ヤセしている。

【参考記事】動静が途絶えていた金正恩氏の側近が激ヤセして復帰

また、以前の現地指導では笑顔を絶やさなかった馬氏だが、表情にも明らかに精気がない。やはり革命化処分を受け、厳しい環境に置かれていたようだ。それでも処刑されなかっただけ、本人にとっては不幸中の幸いではあるだろう。

馬園春氏の檄ヤセぶりと豹変した雰囲気を見るだけでも、粛清と処刑を繰り返す金正恩氏の恐怖政治が、いかに残酷で恐ろしいものか想像できるというものだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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