金正恩第1書記に異議を唱えたとして大口径の高射銃で人体を文字通り「ミンチ」にするやり方で処刑したり、「韓国人スパイ」と関係をもった容疑により芸術関係者を400~500人の前に引き出し、機関銃で体を粉々にするなど、残忍な処刑方法が伝えられる北朝鮮で、またもや理不尽な処刑が行われた。
舞台となったのは中朝国境に面した北朝鮮の両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)市。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、9月に韓国と通話した罪状で女性3人が銃殺されたと報じていたが、同ラジオのその後の追加取材で動画ファイルの販売が銃殺の本当の理由だったと判明する。
2000年以後、北朝鮮では、韓流をはじめとする外国映画が違法DVDやメモリなどのデジタルメディアを通じて拡散している。北朝鮮国営メディアは、金正恩時代になってかなりソフトにはなりつつあるが、相変わらずプロパガンダ中心の放送コンテンツだ。娯楽に飢える北朝鮮住民にとっては退屈極まりなく、韓流ドラマや外国映画を見たがるのは、ごく自然の流れといえる。
こうした動画ファイルは密売人を介して中国から密輸入される。北朝鮮当局もその度に取り締まりを強化しているが「イタチの追いかけっこ」状態で一向になくならない。
しかし、いくら北朝鮮といえども通常の韓流ドラマの販売ぐらいで銃殺というのは珍しい。実は、女性らが販売していたのは「喜び組」を描いた韓流ドラマ『ツツジの花が咲くまでに』だったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面『ツツジの花が咲くまでに』は、「喜び組」に所属し、後に脱北した申英姫(シン・ヨンヒ)さんの手記を原作にしたドラマだ。原作は日本語に翻訳され『私は金正日の「踊り子」だった』(徳間文庫)という邦題で出版されており、「喜び組」をはじめ北朝鮮の内部事情が赤裸々に記されている。その後も、「喜び組」に関する新証言は出てきておりその実体は明らかになりつつある。
3人姉妹が販売していたのが『ツツジの花が咲くまでに』ならば、北朝鮮当局があえて銃殺した狙いも見えてくる。
「喜び組」は、金一族、とりわけ故金正日総書記に関する最高機密スキャンダルだけに、ドラマの存在自体が知られれば、多くの住民達が逆に興味をもつからだ。つまり『ツツジの花が咲くまでに』の存在を隠蔽するために、あえて携帯電話の違法通話という濡れ衣をかぶせられ処刑されたというのが、今回の処刑事件の背景と言える。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最高尊厳のスキャンダルを銃殺で隠蔽するのは、いかにも北朝鮮当局らしい。しかし、最高尊厳の権威を守るための銃殺処刑という非人道的な方法が、結局は国際社会からの非難と孤立を招き、北朝鮮の発展を阻む大きな障壁となっている。