1月15日、韓国の連合通信がある情報筋の情報として、「党組織指導部の李済剛第1副部長が課長級以上の幹部を緊急招集し、金正日総書記の三男の正雲(ジョンウン、26)が後継者に指名されたという決定事項を伝達した後、各道の党機関にも後継関連の指示を下しており、高位層を中心に後継者決定に関する情報が急速に広まっている」と報道したが、その後、北朝鮮の後継者関連情報が韓国と日本を駆け巡っている。
1、北朝鮮後継者情報をワイドショー化する一部マスコミ
RENKを通じて「金正男氏(38)の側近らが平壌で治安当局に連行される事件が相次ぎ、正男氏が滞在先のマカオから帰国できないでいる」(時事通信、6月5日2時34分配信 )などの情報が流れた。その後もテレビなどで北朝鮮内で粛清の嵐が吹き荒れているかのごとき発言を行なっている。
この「粛清情報」に対して「世界日報」は、金正男の母方親戚筋(欧州居住)に対する取材に基づき、事実でないことを確認した(5日のウィーン発)。同親戚筋は「根拠のない情報だ。平壌では後継者選出を巡る権力闘争は生じていない」と述べると共に、「後継者決定に関する外交電文が在外公館に送られた、というニュースも聞いていない」と語ったという(世界日報2009/6/5 21:17)。
この報道を裏付けるように、金正男は6月6日に日本テレビのインタビューに応じ(ザ・サンデーネクスト6月7日放映)、金正男の側近が「粛清」されたのかとの質問に対しては、「そうした報道は全くの偽りだ」と否認し、「私は北朝鮮の市民権を持って中国やマカオに滞在している。北朝鮮から亡命することは決してない」と強調した。後継者問題については「正雲が後継者に内定したという情報を報道で初めて知った。私はこれを確認できない」としながらも「しかし(金正雲氏の後継内定を)、ノーとも言えない」と答えた。また「後継者は全的に父が決める」とも語った(韓国中央日報2009.06.08 08:00:45)。
北朝鮮後継者に金正雲が決定したとの今年の1月15日の連合通信情報が流れた後、全貌が明らかになるとしていた4月9日に何事も起こらなかったことで「金正雲後継説騒動」は収束するかに見えた。
しかし、北朝鮮の核実験後、特には6月に入って韓国の国家情報院と米国高官から「金正雲後継決定情報」が流されたことで、再び北朝鮮後継問題が日本のマスコミをにぎわしている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮が5月25日に核実験を行なった直後の6月1日、韓国国家情報院は国会の情報委員らに対し「北朝鮮当局が正雲氏後継者決定の事実を盛り込んだ外交電文を海外公館に伝達したと承知している」と報告した。北朝鮮の後継者決定について、韓国情報当局が公に情報を流したのはこれが初めてだ。
連合通信によるとその内容は、1月8日の金正雲の誕生日に金総書記が彼を後継者に内定し、朝鮮労働党組織指導部に秘密裏に下達。核実験の直後、労働党、朝鮮人民軍、最高人民会議常任委員会、内閣官庁、海外公館に「正雲氏後継者決定」の事実を通知し、「後継者・金正雲」を事実上、公式化した(連合2009/06/02)というものである。この情報をキッカケに日本のマスコミも一斉に金正雲後継決定の報道を流し始めた。主な報道には次のようなものがある。
〇北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記(67)が三男正雲(ジョンウン)氏(25)を後継者に指名した、と朝鮮労働党幹部が中国共産党幹部に伝達していたことがわかった。正雲氏が今年初め、党や軍の人事権を握る党組織指導部長に就任したとの情報も伝えられた。労働党幹部と関係が深い北京の中朝関係筋と、両国を往来する金総書記に近い北朝鮮筋が明らかにした(朝日2009年6月3日3時0分)。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面〇北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記の後継体制について、米政府高官は2日、ワシントンでの会合で、「三男が後継者として指名され、義弟(の張成沢(チャンソンテク)氏)が日々の国家運営を担うようだ」と述べ、オバマ政権は金総書記の後継に三男・正雲(ジョンウン)氏(26)が有力との見方を強めていることを明らかにした(2009年6月3日14時43分 読売新聞)。
〇「後継者は金正雲氏」と大々的に報じる「民族21」6月号 韓国の親北朝鮮系雑誌「民族21」6月号が金正日(キムジョンイル)総書記の後継者は三男、正雲(ジョンウン)氏(26)と断定していることが29日、わかった。西側で北朝鮮と最も太いパイプを持つ雑誌が、タブーであるポスト金正日特集を組むこと自体が異例で、平壌指導部の「お墨付き」か?と関係者の注目を集めている。(毎日2009年5月29日 11時21分、鈴木琢磨)
こうした情報に「尾ひれ」をつけるように、こんどは時事通信、産経新聞が「金正男粛清説」まで流し始めたのだが、それは次のような内容だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面〇北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏(38)の側近らが平壌で治安当局に連行される事件が相次ぎ、正男氏が滞在先のマカオから帰国できないでいることが、4日分かった。同国の人権改善などに取り組んでいる非政府組織(NGO)「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)」が同氏と家族のやりとりの内容を情報筋から入手し、確認した(6月5日2時34分配信 時事通信)。
〇2001年、不法入国で拘束された金正男氏 北朝鮮の金正日総書記の後継に三男の金正雲(ジョンウン)氏(26)が決まったとの見方が強まる中、長男の金正男(ジョンナム)氏(38)が滞在先の中国特別行政区マカオに亡命する公算が強まっていることが4日、分かった。すでに正男氏周辺で粛清が始まっているとされ、北朝鮮国内では、正雲氏をトップとする新体制づくりが急ピッチで進んでいるとみられている(産経2009.6.5 07:30)。
この情報が報道された後、各テレビ局も先を争って「金正男粛清説」を報じた。しかしこの「金正男粛清説」については、前段でも指摘したように世界日報が「誤報」と断定し、金正男本人も否定した。また、脱北者の康明道氏(姜成山元首相の娘婿)はテレビ朝日の「スクランブル」(6月7日)の中で、この情報を根拠のないものとして一蹴した。
こうした根拠のない情報を報道する姿勢に対して、「スクランブル」コメンテイターである黒鉄ヒロシ氏は同番組の中で、「こんな情報をテレビ番組で取り上げる必要があるのか」と苦言を呈した。
事実、「金正雲後継決定」についても、「金正男粛清説」についてもすべて「情報筋」の情報だけで、確たる根拠はなにも示されていない。韓国の国家情報院が、わざわざ国会の情報委員に伝えたという金正雲後継決定に関する「海外公館に伝達した外交電文」も、その文の内容すら示されていない。
韓国政府の幹部らは「問題の“電文”そのものを入手したのではなく、人づてに聞いた話のため、“電文”の正確な内容については分からない」と口をそろえている。また、当の国情院も「“電文”そのものを確保したわけではない」と話した(朝鮮日報2009/06/08 09:57:25)。
ジャーナリズムとは未確認情報を垂れ流すことではないはずだ。
2、米・韓政府は「後継者情報」を推測、未確認と公式発