北朝鮮の金正恩氏が最近、「海産物輸出禁止令」を下したことが明らかになった。

江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、禁止令に伴い一切の海産物が税関を通過できなくなっている。朝鮮人民軍の各軍団が運営している「水産事業所」や外貨稼ぎ機関「大成総局」の傘下にある「輸出水産事業所」で水揚げした海産物は、近隣の軍部隊に送られるようになった。

また、内閣が管理する水産事業所や輸出加工事業所も、水揚げした海産物を国内の大都市や内陸の市場に出荷するようになっている。

一般の兵士や将校たちは、お目にかかることすらなかったイカ、カニ、エビなどが食べられるようになり、非常に喜んでいる。また、一部は市場に横流しされ、市場で売られる海産物の量が増えた。

幹部らは沈痛な表情

ところが、この措置が思わぬ波紋を呼んでいる。 水産事業所から出荷される魚類が市場に大量に流れ込んでいるところに、軍の幹部が横流しした魚類も加わったため、供給過剰に陥り、価格が暴落してしまったのだ。

庶民は喜んでいるものの、商人たちの表情は晴れない。また、水産事業所の幹部たちは、輸出ができなくなったことで自らの生活にも著しい影響が生じて、沈痛な面持ちで日々を過ごしているとのことだ。

金正恩「金庫」の中身が…

北朝鮮当局は、中国漁船に北朝鮮沿岸での漁業権を売り払い、漁民が困窮するに至るや、中国漁船の操業を禁止した。

一方で「脱北防止」の名目で小型漁船の出漁を禁じ、漁民を困窮に陥れるなど、漁業政策は朝令暮改そのものだが、今回の金正恩氏の唐突な指示については、相反する二つの見方が存在する。

ひとつは金正恩氏の金庫に余裕ができたためではないかというものだ。

北朝鮮が海産物の輸出で得る外貨は決してバカにできない額だ。韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の資料によると、北朝鮮が2014年に海産物の輸出で得た外貨は1億4400万ドル(約173億2000万円)に達し、輸出総額に占める割合は5%近い。

北朝鮮軍の各軍団の持つ「18号水産事業所」や各道の「輸出水産事業所」で儲けた外貨は、金正恩氏個人または労働党の金庫に入る仕組みになっている。

市場システムへの無理解

従って、これら金庫に相当の余裕ができたので、海産物の輸出を全面禁止する措置を取ったという見方だ。 もうひとつの見方は、金正恩氏が軍部や一般住民の支持を得るために、現実を無視して海産物の輸出を禁止したのではないかというものだ。

情報筋は「金正恩氏は軍部隊の視察を頻繁に行い、数十隻の漁船を軍傘下の水産事業所に回すなど、軍人の食の問題を重視してきたが、その漁船で採った海産物はすべて輸出に回され、軍人の口に入ることはなかった」とその背景を説明した。

一方で「軍人に魚をいっぱい食わせろ」と言った指示は、20年以上前の考え方だとこき下ろした。

市場経済の発展で食料事情は改善したものの、一部では依然として餓死者が出る状況の北朝鮮。そのような状況で今回の「飢餓輸出」の停止は英断とも言えるが、市場のメカニズムを無視した急激な措置は、経済発展の障害となりうることを金正恩氏は学ぶべきだろう。

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