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北朝鮮の金正恩第1書記は今年5月、「10月10日の朝鮮労働党創立70年記念日までに麻薬犯罪をともかく根絶させよ!」と指示を出した。この指示に基づき、北朝鮮全土で「麻薬取締」が強化されている。

そんな中、麻薬を取り締まる警務官(憲兵)、いわば北朝鮮の麻薬Gメンが、麻薬中毒者に「命を救われる」という仰天するような出来事が起こり、住民達の話題になっていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

9月中旬、黄海北道(ファンへブクト)の沙里院(サリウォン)の駅頭で起きた「仰天エピソード」の一部始終を紹介しよう。

麻薬Gメンのパク・サンホ同志(仮名)が、駅で任務に当たっていると、軍人のチェ・ヨンギル(仮名)が「阿片」を隠し持っていたのを見つけ、その場で逮捕。しかし、次の瞬間、なぜかパク同志は倒れたしまった。

実はパク同志は「てんかん」の持病をもっており、突如発作を起こしてしまったのだ。

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その時、逮捕されチェ・ヨンギルは逃げればいいものの、驚くべき行動に出る。懐から注射器を取り出して阿片を入れ、倒れたパク同志に投与したのだ。阿片だけでなく、注射器まで保持していたことからチェ・ヨンギルは麻薬常用者、あるいは中毒者と見て間違いない。しかし、チェ・ヨンギルのとっさの機転が利いたおかげで、しばらくして警務官は何事もなかったかのように起き上がった。

パク同志は、本来は逮捕すべきチェ・ヨンギルに何度もお礼を言いながら阿片所持の件は、不問に付したという。

ただし、チェ・ヨンギルは、とっさの判断で「阿片が効く!」と思ったようだが、医学的にはてんかんの発作時に阿片を投与してはならないとのこと。パク同志に何事もなかったのは、運が良かったのかもしれない。

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一部始終を見守っていた乗客たちにより、このエピソードは「イイ話し」として、北朝鮮の津々浦々に急速に広がったが、人民軍警務部(憲兵隊)、保衛司令部、司法機関などは、苦しい立場に追い込まれていく。

いくら命の恩人とはいえ、麻薬Gメンのパク同志は、中毒者、あるいは常用者と見られるチェ・ヨンギルを無罪放免にしたが、「麻薬を根絶させよ」という金正恩氏の指示に背いたことになる。

しかし、すでにエピソードは全国的に広がっており、当該の警務官のみならず所属部署全体に累が及ぶ可能性もある。情報筋は、「現時点では、この警務官にどのような処分が下されたのかはわからない」と述べた。

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デイリーNKは、北朝鮮で麻薬が蔓延している実態を報じてきたが、医薬品が不足している北朝鮮では、阿片や覚せい剤は万能薬として広く使われてきた。ちょっとした痛み止め、気付け薬、風邪薬としてだけではなく、高血圧や糖尿病を患っている人が常用するケースもある。

また、麻薬はワイロとして広く使われており、検問所を頻繁に通過する時の必修アイテムとして懐にこっそりとしのばせる。いくら金正恩氏が、「麻薬根絶」を主張しようとも、実生活に深く根を張っているのが「北朝鮮の麻薬」である。