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2011年、地方人民会議の代議員候補者の選挙ポスターに「李明博を支持する」と落書きされる事件が発生した。北朝鮮が傀儡国家と罵倒する韓国の李明博大統領(当時)を支持するという文言は、当時の故金正日総書記に対する強烈なあてつけであり、抗議のアピールだ。

最近では5月に、北朝鮮の最高学府といわれる金日成総合大学の近所で「金正恩政権は残忍な処刑を行っている」「金正恩は父金正日より百倍ひどい人殺し」という落書きが見つかった。治安当局は筆跡鑑定までして捜査を行ったが、この落書きは時期的に見て、ある二つの公開処刑に対する抗議と見てまちがいない。

1つ目は、昨年10月に、正恩氏に異議を唱えたとして15人の当局者が大口径の高射銃を乱射されて公開処刑された事件だ。人体を文字通り「ミンチ」にするやり方は、衛星画像によっても確認されている。

二つ目は、5月に行われた玄永哲人民武力相の公開処刑。この時も、玄永哲氏は高射砲で人体が跡形もなく吹き飛ぶほどの方法で処刑されているが、実生活の中で公開処刑を見聞きする北朝鮮の民衆でさえも、さすがに金正恩氏の残虐な処刑方法に怒りを禁じ得なかったようだ。

たかが落書き、されど落書き。危険を顧みず「落書き」で権力への抗議を表明する民衆たちの行動は、必ずや北朝鮮の変革につながっていくだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記