しかし、西欧の自由主義圏で「祝電リスト」に名前が挙がったのは、4カ国だけだ。祝電報道がこれで打ち止めかどうかはわからないが、グローバル時代の国家指導を担う金正恩氏の外交は、やはり新たな広がりに欠けていると言える。
それもそうだろう。米国とキューバが国交を回復し、北朝鮮が置き去りにされている様を見れば、北朝鮮が外交関係を広げられない理由がわかる。
キューバ政府は、米国との国交正常化交渉入りに伴い約束していた政治犯53人全員の釈放を実行した。一方、北朝鮮の政治犯収容所ではすでに万単位、あるいは十万単位の人々が凄惨な虐待の末に殺されている。そして今なお、同じくらいの数の人々が囚われ、虐待を受けているのである。
そのうえ北朝鮮の場合、残虐な処刑現場が衛星画像で確認されてしまっているとあっては、「そんな独裁者に祝電など、そんなヤバいものは送りたくない」と思われてしまうのがむしろ自然だろう。
そんなことなど意に介さず、折に触れて熱い応援のメッセージを交換する盟友が正恩氏にもいることはいるのだけれど。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。