北朝鮮で女性による犯罪が急増している。先月15日、北朝鮮北部の清津市で、1日に3件も殺人事件が発生したが、北朝鮮捜査当局は、「女性犯罪組織」が緻密な計画に基づいて犯行に及んだと見ているという。背後に見え隠れする「女性犯罪組織」は、麻薬、宿泊、運送、貿易、港湾業務など「ウラ事情」に精通しており、組織拡大と利益のためには殺人も厭わないからだ。

時折、新証言が出てくる「喜び組」の存在が象徴するように、北朝鮮社会には伝統的に男尊女卑が根強く残っている。それにもかかわらず女性犯罪が急増している背景には、今や「北朝鮮経済の主役は女性」という事情があった。

90年代後半から北朝鮮を襲った大飢饉は、社会主義経済を粉砕したが、その後、実質的な「市場主義経済」に移行するなか、女性達は家族を養うために、商売をはじめた。なかには、生活を支えるために、やむをえず「売春」に走る女性がいることはデイリーNKが入手した映像から窺える。

北朝鮮当局も「女性犯罪」の増加には神経をとがらせているようだ。今年2月、平壌で次のような警告が出された。

「金に目が眩んだ一部の女性が社会主義一心団結を傷つけて社会への不信感と不和を煽っている」

表現自体は、いかにも北朝鮮っぽいが、要は「オンナ詐欺師」による大型詐欺事件が発生したから気をつけろということだ。実際、北朝鮮のある女性は、自らの類い希なる美貌を利用して、富裕層の男性から多額の現金を巻き上げたという。まさに資本主義社会顔負けの「オンナ詐欺師」っぷりだ。

また、北朝鮮の清津市では、役所に勤める事務係の女性が、地域住民から多額の金をだまし取る事件や、麻薬取引に関与していた警官の妻が、証拠隠滅を図り、取引関係者の二人に「毒入りスンデ(腸詰め)」を食べさせて毒殺する事件も発生。こちらは、まさに北朝鮮版「毒婦」といったところか。

ことわっておくが、北朝鮮女性のほとんどは、真面目で慎ましやかな生活を営んでいる。また、大飢餓を通じて鍛えられたタフな生活力は一般男性を遥かに凌ぎ、今では男性が「稼ぎもないのにタバコを吸いながら酒ばっかり飲んで使い物にならない」と見下される始末だ。

頼りにならない国家経済と男性に見切りを付けて、タフな北朝鮮女性達が、裏社会でも多大な影響力を及ぼしているというのは実に皮肉な話しだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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