15年という歳月の中で、北朝鮮に行き来して起こったことについて、だいたいのことは記憶が蘇るが、頭の中をいくら探しても顔が思い浮かばない人が一人いる。ここで述べたいと思っている人のことである。
平壌に泊まっていた時のことだ。海外同胞援護委員会の参事であるロ・チョルスが、夕飯を食べずに自分と一緒に犬肉を食べに行こうと言うので、ついて行った。どこなのか分からない薄暗い所をしばらく進み、一軒の家の前に車が止まって案内された。
古い韓国家屋だった。奥座敷できれいなチマチョゴリを着た女性が迎えてくれた。ロ・チョルスは私を部屋に案内しただけで出て行った。オンドルのたき口に近い所に座っていた、私と同年齢の壮健な男性が立ち上がりながら、「チャンク先生、お会いできて嬉しいです」と挨拶した。すぐにお酒や料理が運ばれて来て、二人っきりで向き合って座った。
沈黙が流れた。自分は中央党の高位幹部だと明らかにしたが、名前は言わない。私についてはもうよく知っていたから、特に紹介する必要もなかった。まずお酒が数杯行き来した。料理がふんだんに出て来て、すぐに私たちは親しくなった。
私を特別もてなす理由について知りたかった。これまで、朝鮮(北朝鮮)に家族がいたわけでもないのに、祖国のために熱心に事業をしてくださって感謝しているので、指導者同志がこのような席を準備してくださったと彼は言った。この人は、指導者同志や首領様の配慮だと、習慣のように口にしていた。
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彼は「米洲地域で苦労して暮らしておられる同胞に対して関心が高いので、いろいろな話もしたい」と言い、「同胞に祖国が何を支援しなければならないか知りたいし、米洲地域の同胞が祖国を理解するために少しでも役立つことをするために、何をしなければならないか話していただきたい」と語った。
また、「米帝国主義の国で、どれだけ苦労して暮らしておられるのかということについても話を伺いたい」と語った。何をもくろんで工作しようと、よりによって私を選択したのだろうかと考えていたら、私の撫??ヌんだかのように、「緊張なさらないでください。ただ同胞たちが何人も、どうやって暮らしているのか、生活水準はどの程度なのか知りたいのです」と言った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この人は、解放前の首領様の抗日パルチサン時代から、その後の朝鮮解放戦争(朝鮮戦争)まで、そして祖国建設事業の過程で、在日同胞に祖国のことを伝えるために教育事業を大々的に展開したということまで、朝鮮の歴史について長たらしい話をした。
最後は、米洲地域に在米朝鮮総連(朝鮮人総連合会)を組織して、祖国をもう少し組織的に支援してくれたらよいという意見を私に打診してきた。アメリカに「朝鮮総連」のようなものを作ろうという意見を聞くために、私を別に呼んで会食を準備したのだった。
私は胸中、「『人選を誤った』と叫んだ。アメリカでは日本のように朝鮮総連のような組職が不可能だということを説明した。現在、アメリカに住んでいる海外同胞は、全て韓国で暮らしていて移民して行った同胞たちだ。最近は貧しくて生活できずにアメリカに行くのではなく、ほとんどは韓国よりも広くて大きな国に行って、子供たちも立派に教育しようと移民していると話した。
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アメリカ政府が活動を禁止するのは当然のことで、日本に住んでいる朝鮮総連の同胞は国籍が北朝鮮で、北朝鮮で管理してきたから可能だったが、アメリカに住んでいる同胞はほとんど韓国国籍だから、まず説得力がなくて組職は不可能だ。
もし、北朝鮮が私たち米洲海外同胞に「思想的協助」を強要したら、北朝鮮の訪問をやめるだろう。いわゆる一部の親北朝鮮系の米洲同胞も、朝鮮総連の組職には反対するだろう。この人たちも、単に北朝鮮をほめたたえているからといって、韓国には行くこともできないのに、親北朝鮮ではない海外同胞には常識的に不可能なことだ。
だから、急がずにこのように共和国を訪問する同胞たちとうまくやって、共和国の経済に優先的に関心を置いて、海外同胞の意見を尊重して、事業の進出に積極性を持つようによく協調してあげることだけが、現在としては最善のことだと強調した。思想的な組職よりも、経済的な協力ができる組職の方が急がれるということを強調した。
私の立場がこのように確固としていたので、彼はもうそれ以上話すことがなさそうだった。「よく分かります。参考にします」とだけ言い、また酒宴が始まった。
中央党の高級幹部という人が、現実を把握することも全くできていないのが情けなく思われた。扉を開いて海外在住の同胞を選別して受け入れてから、もう何年も経ったと急いて、朝鮮総連の組職から工作すると言って行動するとは、情けなくはないのだろうか。国家の外交がこの水準だから、国が正常に進むはずがない。