北朝鮮の金正恩第1書記は、先代の金日成・正日氏の政策やスローガンを理由なしに変更、または廃止することが多く、住民の不評を買っていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

その年の基本方針を明らかにする「新年の辞」だが、今年、金正恩氏は植民地支配からの解放を意味する「祖国光復」を「祖国解放」と表現。正恩氏が、表現を変えた意図は不明だが、北朝鮮のメディアは、それ以後、一斉に8月15日を「祖国解放記念日」と呼ぶようになった。

しかし、北朝鮮では、朝鮮戦争を「祖国解放戦争」と呼ぶことから、ややこしくなったと咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が語る。

「第二次世界大戦終戦の8月15日を『祖国解放記念日』と呼んでしまうと、『祖国解放戦争』(朝鮮戦争)という名称と合わなくなるので、住民達も混乱している」

1945年に植民地支配から解放されたのに、その5年後に再び「解放のための戦争」をする理由がわからないということだ。

また、金正恩氏は今年の8月15日から新しい標準時「平壌時間」を導入した。その理由を「奸悪な日本帝国主義者は前代未聞の朝鮮民族抹殺政策を行い、朝鮮の標準時間まで奪った」「血にまみれた日帝の百年罪悪を清算し民族の自主権を守護する」としているが、これについても住民から疑問の声が挙がっている。

平壌時間が、植民地時代の悪しき遺産だとするなら、「今まで日本が定めた標準時を使ってきた父親と祖父は『親日派』(植民地支配に協力した者)なのか」という疑問の声だ。

さらに、金正恩氏は「金日成氏の有名な演説の一節を盗作している」と悪評が高まっている。1945年10月14日、金日成氏は、「凱旋演説」で「お金のある人はお金で、知識のある人は知識で、力のある人は力で富強な自主独立国家を建設しよう」と語った。

金正恩氏は、祖父の演説の一節を利用し、庶民から幹部に至るまで「忠誠の贈り物」「忠誠の資金」「割り当て課題」など様々な名目でカネや物を差し出すように強要している。10月10日の労働党創建70周年の記念建設事業などの予算が不足しているからだ。

住民からは、「祖父の業績を利用して顔に泥を塗っている」「何もくれないんだから、これ以上はむしり取ってくれるな」などの批判の声が上がっている。

散々な言われようの金正恩氏だが、本当に彼だけの責任なのだろうか。予算が足りない場合、通常の国家なら税率を上げるなどして、税収を増やす方法を考えるが、北朝鮮では、簡単にできない事情がある。

税制について、金日成氏は、1974年3月に開かれた最高人民会議第5期第3回会議で「税金制度を完全になくすことについて」という法令を採択。4月1日には税金制度の撤廃を宣言した。それ以来「我が国(北朝鮮)に税金なるものはない」というのが北朝鮮の公式見解だ。

つまり、「税金制度」の復活は、「金日成氏の業績を否定すること」になる。これが出来ないために、様々な名目でカネや物品を徴収せざるを得ないのが、北朝鮮の実情だ。

金正恩第1書記は、指導力とカリスマ性のなさに加えて、二代、70年にわたって築かれた金王朝、いわば「金氏朝鮮」の歪みに苦しめられているとも言える。

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