板門店での韓国・北朝鮮の高官会談が、軍事衝突の回避に向けた落着点を見いだせず長時間にわたる中、北朝鮮の軍が不穏な動きを見せている。

韓国の聯合ニュースなどは24日午前、朝鮮人民軍が上陸作戦用のホバークラフトや特殊部隊を前線に配置したと報じた。

このホバークラフトは、特殊部隊の隊員を輸送、上陸させるためのもので、1隻に40~50人が乗船でき、最高速度は74キロから96キロだ。30分もあれば数百人の人員を韓国側の島嶼に上陸させられる。

これに先立ち、北朝鮮が潜水艦戦力の大半を出港させ、韓国軍の探知システムの捕捉範囲から離脱させたとも伝えられている。

潜水艦とホバークラフト、そしてこれらに搭乗する特殊部隊は、北朝鮮の対南浸透用の核心戦力と言える。

北朝鮮がこうした行動に出るのは、準戦時状態の宣布にともなう軍事マニュアルに沿った動きと推定される。それと同時に、「会談で容易に妥協しない」「決裂すれば軍事行動に出る」といった脅しの意味もあるのかもしれない。

しかし、北朝鮮がこうして露骨なプレッシャーをかけても、韓国側が妥協するとも思えない。韓国側は北朝鮮の地雷爆発によって自軍兵士に重傷を負わされ、その瞬間の映像を国民に公開してきた経緯もある。

そもそも、韓国軍は北朝鮮により海軍の哨戒艦を撃沈され、延坪島を砲撃されて民間人を殺されても、戦略的な報復を行っていない。韓国軍部内に、報復のマグマが溜まっていてもおかしくはないのだ。

それに、通常戦力ならば韓国は北朝鮮に対して圧倒的に優位であり、潜水艦やホバークラフトによる威圧には動じないだろう。

一方の北朝鮮は、韓国との海戦で連続して敗北した際、明確な戦略的な意図の下に報復を行ってきた。

仮に今回の会談が決裂し、局地的な軍事衝突で敗北したら何を持ち出すか……。

怖いのは、こうした報復の連鎖が手のつけられない状態に陥ってしまうことだ。話し合いにより危機が回避されることを、切に望む。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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