平壌の順安空港から白頭山に向かうために、ソ連制の双発46人乗り飛行機が離陸した。
1時間30分飛行した後、両江道のサムジヨン空港に到着した。サムジヨン旅館に部屋をとって、’抗日闘争遺跡地’という、白頭密林の野営地地域の見物に動員された。女性の軍服を着た専門の講師が説明をしてくれたが、録音したものをその通りまとめる。スローガンの木に関する説明だ。
『最近、白頭山を中心に我が国の北部国境地帯の大樹林地帯と、咸鏡南北道、慈江道、平安南北道、平壌市を含めた全国の広い地域で、抗日革命闘争の時期のスローガンの木や遺跡、遺物が新たに発掘されています。
こうした遺跡や遺物は、抗日革命闘争を勝利に導いた偉大な首領、金日成主席様の光栄燦爛たる革命活動の歴史を証明してくれる貴重な証拠品で、(中略)敬愛する首領様と抗日の女性英雄である金正淑同志、親愛なる指導者金正日書記の偉大性を高くほめたたえる’我が民族3代の誇り’に関するスローガンが、全国のあちらこちらで発掘されています』
私は言いたいことが喉まで上ってきて、堪えるのが大変だった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面“なぜ、木に書いた時の日付けと書いた人の名前が一つもないのですか”
聞いた振りをしたように、他の話に移る。 隣りの人が私のわき腹を突いた。
“気まずい立場になるかも知れないのに、どうしてそんなことを聞くのですか”
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これが全てではないだろうが、多くの木に刻まれた字が、ねつ造されたという証拠だろう。
金正日が生まれた家、台所に逃げたら怒鳴られる
金正日が生まれたという家屋を見物した。突然、夕立ちにあった。一行が屋根の軒下にどっと押しかけて、私は開いている台所に跳びこんだ。その瞬間、怒鳴り声が響いた。そこがどこか分かっているのですか、全員出なさいと、大声を張り上げている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一行は何も言えずに、それぞれ木の下に移動した。ただただ、雨宿りする気にもならない木を恨んで空を眺めていた。怒りがこみ上げてきて、何かひとこと言ってやったら気がすんだだろうが、幸いにガイドとは目があわなかった。
サムジヨンから白頭山までは46キロだ。ガタガタと揺れるバスの中で、もう一度金日成のパルチサン時代の革命話を聞いたが、ほとんど眠っていた。
天池は絵や写真で見たのとはまったく異なっていた。
見た瞬間、全身に戦慄を覚えてぱっと跳びこみたい瞬間的な感情と、吸い込まれるような感じ! 見た瞬間のその感覚をどのように表現したらよいだろうか。天池を見ていたら、天池全体をなかなか見られない。まるで流れる水のように漂う雲について行って、その後を霧と雲が雨を降らしながら追い、そのうち、急に空を覆う淡い夕立ちが過ぎ去る。
白頭山はあえて近付くことができない、半万年の民族の魂を抱いて、民族の精気が染みている山!我が民族の恨みと夢が安らかにある場所!今にも金色の竜が昇天するかのような大海だ。半万年の歴史を深く抱き、黙々と見守っている天池。日本の抑圧を避けて風吹く満洲の原野で、彼らの生を開拓していった朝鮮族の同胞。過去の歴史ではない。まさに私たちが子孫に譲らなければならない未来である。
ところが、金正日は家を一つ建てて、白頭山を自分の前庭のように、家族の革命史跡地として飾っている。なんと悲しいことか。白頭山で経験しなければならなかった複雑な心情である。