こうした問題の根深さを物語るのが、やはり会見に臨んだパク・ヒスンさんの証言だ。パクさんによれば、北朝鮮には「性的暴力」という概念すらないため、女性らは告発する言葉すら持てないのだという。パクさんが、自分が受けた被害が人権侵害だと気づいたのは脱北して韓国に来てからだった。
北朝鮮における人権侵害の状況は、最近になってようやく、国連などにおける重要テーマになってきた。その中でも注目を集めているのは、政治犯収容所や外国人拉致の問題だ。
そのこと自体については、筆者自身も当然だろうと思う。ただ、北朝鮮社会の内部には女性に対する人権侵害が厳然と存在し、他の問題と同様に解決が急がれるべきであるということを、より多くの人に知ってもらいたい。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。