朝鮮半島、とりわけ北朝鮮では旧来の男尊女卑的な思考が根強い。そのせいか、「女性の人権」という概念自体がなかなか理解されない。

時折、脱北者の女性から「韓国に来て、はじめて北朝鮮で自分がうけていたのが『女性の人権侵害』であることを知った」という声をよく聞く。

そうしたなか、最近、北朝鮮国内の女性や脱北した女性の人権侵害を巡り、当事者や支援者らによる告発が続いている。

たとえば4月29日、中国東北地方で脱北者救援活動を行っているNGOがソウル市内で記者会見を開き、脱北後に人身売買の被害にあった女性2人への支援を訴えた。

まだまだ幼い女性たちが人身売買の被害

2人のうちのひとりである李さんは、12歳の時に家族に先立たれ、独りでコチェビ暮らしをしていたところ、「中国に行けば豊かな暮らしができる」というブローカーの話を聞き、17歳の時に国境を越えた。

ところが、その話自体が人身売買の罠だった。李さんは13歳年上の中国人男性に売られ、「結婚生活」を強要される。その後、どうにか逃げ出したものの、まだまだ幼い北朝鮮の女性たちが中国で人身売買の被害にあっている」と本人は話す。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じたところによれば、こうした人身売買は、中国人ブローカーや北朝鮮の腐敗した軍人の間ですっかりビジネスとして定着している。人身売買された脱北女性の救出活動を行っている人物はRFAの取材に対し、次のように証言している。

「中国の人身売買組織が、北朝鮮の軍人とグルになって多くの北朝鮮女性を脱北させている。年配の女性は人民元で1万元(約19万4000円)、20代女性は2?3万元(約38万8000円~58万1000円)で売られている」

こうした被害に遭っている脱北女性たちは、言葉も通じず身分証明書もないため、売られた先の中国人男性のなすがままにされており、深刻な暴力に悩んでいる人も少なくない。

一方、北朝鮮国内においても、女性らは決して「安全」ではない。

脱北女性団体の「ニューコリア女性連合」(本部=ソウル)は最近、北朝鮮で7年以上の軍歴のあった脱北女性らの記者会見を開き、北朝鮮の軍隊内で女性軍人に対する性的暴行が横行している実態を明らかにした。

会見に臨んだある女性は、軍隊内の朝鮮労働党副書記から「労働党に入党させてやる」と言われ、「金日成同志革命思想研究室」に呼び出されて性的暴行を受けたと証言した。

北朝鮮では労働党に入党できれば、昇進や配給面で有利な扱いが期待できる。また、思想研究室は容易に出入りできない神聖な場所とされており、それを悪用して性的嫌がらせや暴行が行われることが多いと言う。

こうした問題の根深さを物語るのが、やはり会見に臨んだパク・ヒスンさんの証言だ。パクさんによれば、北朝鮮には「性的暴力」という概念すらないため、女性らは告発する言葉すら持てないのだという。パクさんが、自分が受けた被害が人権侵害だと気づいたのは脱北して韓国に来てからだった。

北朝鮮における人権侵害の状況は、最近になってようやく、国連などにおける重要テーマになってきた。その中でも注目を集めているのは、政治犯収容所や外国人拉致の問題だ。

そのこと自体については、筆者自身も当然だろうと思う。ただ、北朝鮮社会の内部には女性に対する人権侵害が厳然と存在し、他の問題と同様に解決が急がれるべきであるということを、より多くの人に知ってもらいたい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事