連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/外事警察編(4)

警察の設置を定めた警察法では第2条で、警察の責務について「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること」と定めている。

また、責務の遂行にあたっては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、権限を乱用してはならいともしている。公安警察が行う協力者獲得などの工作も、犯罪捜査に必要な情報収集として行われている。

しかし、犯罪と関係があるとは言えない政治情報や選挙情報、さらには犯罪はおろか政治とすら無関係な市民運動までも警察が監視・情報収集を行っているとしたら、それは警察法の定めから逸脱していると言わざるをえない。

創価学会の情報も

実は、警察庁警備局はそのような活動を目的に「ゼロ」 を凌駕する秘密組織を作り上げているのだ。

その秘密組織は「IS」(Integrated support)と呼ばれている。

ISに期待されるのは、公安各課、外事各課から対象組織ごとにタテ割りで報告される情報に横串を入れ、情報を立体化して完成させることだ。

たとえば、野党議員と朝鮮総連の幹部が頻繁に接触していたとしよう。北朝鮮を担当する外事2課はその幹部の動きを追うが、野党議員までは関心が及ばない。一方、公安には共産党以外の野党を専門的に担当する部署がないため、そのままでは野党議員と朝鮮総連がどんな目的を持って接触しているのかがわからない。

自民党政権を支える

そこで登場するのがISだ。外事や公安の各部門で「エース級」と言われる捜査員が、マスコミを協力者にしたり、あるいは対象者に直接接触して、情報を収集するのだという。その実態について、公安関係者は次のように明かす。

「ISができた経緯について詳しくは知らないが、90年代に杉田和博警察庁警備局長が作ったと聞いている。当初の目論見は、55年体制が終わり政治情勢が混沌としてきた時に、警察の情報力を使って自分たちに都合のよい政権、つまり自民党政権を支えようというものだったようだ。だから当初は、選挙情報や自民党以外の政党の動向を探るのがメインだった。創価学会の池田大作名誉会長の健康問題や女性問題は、自民党が喉から手が出るほどに欲しがっていた情報のひとつだった」

そしてその後も、警察庁はISを公安警察の中心に据え、“庁益”の追求に邁進しているという。

「ISは、大規模警察本部では警備部の筆頭課に1個班5〜6人。警視庁にはこの数倍の人員が配置されている。共産党や極左セクト、外事関係の“ネタ取り”で実績のあるベテラン警部補クラスを集め、マスコミや国会議員、議員秘書、地方議員などを協力者として様々な情報を集めている。
日朝協議でどういう交渉が行われたのか、外務省幹部がいつ、どこで北朝鮮と接触するのか……こういうことを探るのはソトニ(外2)ではなくISなんだよ。そして、警察庁のキャリアはそこで上がって来たネタを、首相官邸と内閣情報調査室内調に“深層情報” としてご注進するわけさ」

マスコミの“お付き合い”

外事警察が「政治警察化」したことで、本来の任務であるカウンター・インテリジェンス(防諜)能力が減退してしまっているのは、これまで述べてきたとおりだ。そして、「政治警察化」の行き着いた先が、このISなのだ。

ある警察幹部は「今のISは、最近力をつけてきた外務省や防衛省と対決するため、そしてキャリアがボストを維持するための道具に過ぎない」と苦々しげに語った。

「しょせん地方公務員ですから」

日本各地で取材経験のあるベテラン社会部記者は最近、若手の外事警察官からこんな言葉をよく聞くという。往年のスパイハンターなら絶対口にしない言葉だろうし、そもそもそんな考えすら持っていなかっただろう。

本物の「交渉カード」のために

かつては、へたな朝鮮総連職員よりも組織の実態を知り尽くしていたり、朝鮮語での冗談を交えながら事情聴取したりする外事警察官もいたとされるが、そういったプロのスパイハンターは既に化石となってしまったのかもしれない。

またそこは、マスコミの責任が大きい部分でもある。

警察のリークに頼り、近視眼的なスクープ競争をしている記者たちは、事件の本質を探るより、ありがたいネタ元である警察幹部への“お付き合い”として、実態より大げさなタイトルをつける作業に忙しい。

そんな環境に身を浸して育つ若手警察官が、バランスの取れた国際感覚と鋭い観察眼を備えたスパイハンターに育つのは困難だろう。

外事警察に求められるのは、見せかけだけの「対北朝鮮圧力」の尖兵として微罪で朝鮮総連を捜査することでも、他省庁の動きを探ることでもなく、防諜の現場から北朝鮮情勢の動向に迫ることだろう。そうした積み上げの上に立って初めて、日本は、日本人拉致問題などで北朝鮮を突き動かす強力な交渉カードを手に入れることができるのではないか。(【外事警察編】おわり)
(【公安調査庁編】公安調査庁はなぜ中国へ「スパイ」を送ったのか につづく)

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)
【連載】対北情報戦の内幕

    関連記事