労働新聞は平安北道亀城市で55人の孤児を育てている夫婦を紹介した。(画面:労働新聞)
55人の孤児をに育てて金正恩氏から感謝状を受け取った老夫婦と子どもたち。中央の求めている「いい話」は労働党と首領と関連があるものだけだ。(画面:労働新聞)
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北朝鮮内部から漏れ伝わってくる話の大部分は、「取り締まりが酷くなった」「無責任な政府のせいでまた事故が起こった」等々、あまり明るい話はない。

しかし、今回だけは、北朝鮮のたくさんの庶民を感動させた「ちょっとイイ話」を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

貧しい家庭に「大量のトウモロコシ」を贈った保安員

北朝鮮の「ちょっとイイ話」の1つ目は、北朝鮮住民を取り締まる「保安員リ・グァンチョル」のケース。

リ・グァンチョルは、人民保安部政治大学(警察学校)を卒業後、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市保安署の淵豊派出所に所属し、配合飼料工場を担当する37歳の保安員(警察)だ。

2児の子どもを持つ父親で経済的にさほど余裕はない。

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しかし、リ・グァンチョルは、管轄区域内の「障がい者家庭」に15キロのトウモロコシを与え、食糧の蓄えが尽きて困っていた老夫婦に20キロのトウモロコシを施した。

「保安員リ・グァンチョル」の話を聞いた、町内の人々は称賛の言葉を贈った。

「庶民を取り締まる側だが、彼らの方も経済的に余裕がないのはよくわかっている。それなのに、困っている家庭にトウモロコシを与えるなんて、すばらしい行為だ」

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なかには、「どうせ無許可の商人から押収したトウモロコシを上げただけだろ。奴ら(警察)が、自前で買ったトウモロコシを与えるわけがない」と冷めた反応を示し住民もいる一方で、多くの人が次のように言いながら拍手を送っているという。

「たとえ、押収したモノだとしても、普通は自分のポケットに入れてちょろまかす。それを困っている人に廻すのはやっぱりすごいことだ」

母子家庭の姉妹に「自作の楽器」をプレゼントした大工

2つ目の「ちょっといい話」の主人公は、恵山市新興(シヌン)洞に暮らす大工の男性。

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大工仕事で糊口を凌ぎ、決して暮らし向きがいいとは言えない男性は、近所に住む母子家庭の姉妹に自作の「笛」と「ハーモニカ」をプレゼントした。

男性は楽器を作ったことはなかった。しかし、姉妹に音楽の才能があると見抜いた彼は、見よう見真似で笛とハーモニカを作り、プレゼントしたのだ。

周辺の住民や役場の人は、男性を大絶賛。

当の男性は恥ずかしげに、「大工で培った腕で、楽器が作れるか、どうか試してみたかっただけ」と語った。

北朝鮮当局「党と首領に関係のない話には興味がない」

いくら経済的に苦しく思想統制されている北朝鮮でも、人々が営む社会であり、こうした「ちょっとイイ話」があるのは当然だ。

しかし、北朝鮮当局や労働党中央は、「庶民のイイ話には一切関心を持たない」とRFAの情報筋は吐き捨てるように語った。

「中央が関心を持って、メディアを通じて大々的に宣伝するのは党や首領のために努力する人だけ。偽善そのものだ」

北朝鮮当局が、「最も喜ぶ話」の1つを例に挙げよう。

2012年6月、咸鏡南道(ハムギョンナムド)新興(シヌン)郡の学校で大雨による土砂崩れが発生した。女子高生ハン・ヒョンギョンさんは金日成氏と金正日氏の肖像画を救おうとして土砂に飲まれて死亡した。

後日、北朝鮮の最高人民会議常任委員会は、ハンさんに「金正日青年栄誉賞」を授与。また、娘を「首領決死擁護闘士」に育てたという理由で、両親、教員、青年同盟の各メンバーまで表彰した。

朝鮮中央通信をはじめとする北朝鮮の公式メディアは、この件を大々的に報道しプロパガンダとして利用した。

北朝鮮当局にとって最高指導者と党に関する「イイ話」こそが専売特許であり、庶民同士の「助け合い」などは、どうでもいいようだ。