人口減少が危惧される中、あらゆる産業分野で後継者不足が叫ばれているが、今後も歯止めはききそうにない。こうした人材不足を解消させるためとして、安倍政権は「外国人技能実習生制度」を推進しているが、その問題点が浮き彫りになってきた。

法務省は3月、今年1月1日現在で日本国内の外国人の不法残留者が6万7人で、前年と比べ946人(1.6%)増えたと発表。不法残留者の数は1993年をピークに減少してきたにもかかわらず、今回は22年ぶりに増加した。その理由は失踪する外国人技能実習生が4581人(前年3567人)と千人以上も増えたからだ。政府は受け入れを拡大しているのに、実習生の失踪は増加――外国人実習生たちに、一体なにがおきているのか。

外国人労働者問題を長年、取材してきたジャーナリストの安田浩一さんに話を聞いた。安田さんは著書『ネットと愛国』(講談社)などの取材を通じ、排外主義やレイシズムの問題に取り組んでいる。(聞き手:高英起)

「霞が関」と中国共産党が労働者を“キャッチボール”

●ざっくり言って、日本にはどれくらいの外国人労働者がいるんでしょうか。

安田浩一(以下、安田):特別永住者を除いて、一般的な外国人労働者は約70万人が日本で働いています。これはあくまでも公式発表で、統計に出ていない数字、オーバーステイや資格外就労を含めると約100万人に上るでしょう。

●彼らは、どういった現場で働いているんでしょう?

安田:一部のホワイトカラーを除けば、ほとんどが生産現場です。それも日本が誇る地場産業や伝統産業ですね。栃木県の「とちおとめ」という世界中に輸出されているイチゴのブランドがありますが、現場でつくっているのは中国人実習生です。それから「今治タオル」で有名な四国の今治。ここは実習生特区になっています。また、北海道の水産関係や、養豚、養鶏の現場。牡蠣の養殖が盛んな広島でも現場で働いているのは実習生です。

●どの国の出身者が一番多いのですか?

安田:やはり中国です。日本人は衣料品などに関して「メイド・イン・ジャパン」こそ“ホンモノ”だと思って有難がる傾向がありますよね。でも、実際に縫製工場で働いている人は中国人が多い。つまり日本国内で生産されていても「メイド・バイ・チャイニーズ」なんですよ。

ジャーナジャーナリストの安田浩一さん(左)とデイリーNKジャパン編集長の高英起(右)
ジャーナリストの安田浩一さんと(左)とデイリーNKジャパン編集長高英起(右)

●外国人労働者に対しては、いまだに「日本で金儲けするためにブローカーに金はらって来ているんだろ」みたいなイメージがあると思います。彼らはどのような経路を経て日本に来ているんでしょうか。

安田:「外国人技能実習生」制度は、元々は現地の法人で働く労働者を日本に招いて技術研修させる仕組みとして始まったんです。ところが、一部の企業が研修の名目で日本に呼び寄せ、安価な労働力として使うようになった。

もう少し詳しく説明すると、労働力が欲しい企業が参加する協同組合などが管理団体として日本の受け入れ窓口となります。

そして、研修生の受け入れ支援と監督を担当する「JITCO(国際研修協力機構)」という公益財団法人があるのですが、これは法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の五省共管により設立されたもので、いわばこれら省庁の「天下り団体」です。ここは実質的に事務処理しかしておらず、本来すべき「助言」と「指導」は出来ていません。

●送り出す側には、どのような仕組みがあるのでしょうか。かつては裏のブローカーが問題になっていましたが。

安田:最近は裏のブローカーじゃないところが、これまた問題なんです。たとえば、中国には日本に人材を輸出する学校がたくさんあり、JITCOのサイトにもリストアップされています。河南省の人材輸出学校を取材したことがあるのですが、この学校は農村から仕事のない若者を集めて入学金を取る。そして技術者として育て、研修生や実習生として日本に送り出しています。

●そういった人材輸出学校は、誰が運営しているのでしょう?

安田:地域の共産党委員会で、校長は地元の共産党の書記や幹部です。実際に訪れてみて、びっくりさせられました。生徒たちが軍隊のように迷彩服を着せられ、グラウンドで腕立て伏せをさせられていたんです。回数をこなせないと、教官がオシリを蹴っ飛ばす。私が「なぜ、腕立て伏せが必要なのか?」と聞くと、教官は誇らしげにこう答えました。

「日本で働くためにも、こうした教育を通じて根性と忍耐を養うのです。雇用する経営者に喜んでもらえる人材を育てているのです」

中国共産党の「労働者の権利を守る」という主張がタテマエであるにせよ、党幹部自身がそれをすっかり忘れてこんなことを言っているんです。

●受け入れ側は霞が関の天下り団体で、送り出し側は中国共産党の利権組織というわけですか。

安田:そうです。日本の国と中国共産党が、中国人労働者をキャッチボールしているような構図になっているんです。

そして、当の労働者たちにとっては日本に来てからが問題なんです。思った以上に景気が良くないからブラック企業で働かざるをえない。真面目に働いても賃金は低い。そして日本に来るには、学校に多額のお金を払わねばならないから借金もある。もし、職場で下手に逆らったり経営者の意向に沿わなかったりしたら、国に送り返されて借金だけが残ってしまうんです。

●なんだか、昔の「奴隷商人」の話を聞いているような気がしてきました。労働環境はどうなんでしょうか?

安田:非常に厳しい就業規則に基づいて働いています。時給は200円とか300円。365日ぶっ通しで、1日の休みもなく働かされているケースもあります。

さらに、就業規則には「同居、結婚、妊娠を引き起こす行為をしてはならない」と明文化されており、外部に電話をかけることさえ禁止されている場合もある。どんなに苦しくても、第三者に相談したり改善を訴えたりしてはダメだということです。

●その就業規則は、日本側でつくったものですか?

安田:さきほどの中国人材輸出学校の中国側と、日本側の地域の管理団体や企業の間で、双方の合意のうえでつくられています。

●そんななか、最近では実習生の関わった事件が世間を騒がせています。広島の牡蠣工場で中国人実習生によって社長が殺害されたり、岐阜の農場実習生がヤギを盗んで食べたり・・・。

安田:そういった事件を理由に、外国人労働者の受け入れを問題視する人が少なくありませんが、彼らが置かれている厳しい現実を知らずに議論するのは無意味です。もちろん、罪を犯せば罰せられるのは当然ですが、先ほど話したような背景を知らずに、極端な行動ばかりを取り上げるだけでは中身のある議論は出来ません。

●はっきり言って、中身のある議論が交わされることは本当に希ですよね。

安田:外国人労働者の現状に対する無知と無関心は、今の安倍政権、そして日本社会全般にも言えることです。そうした空気を象徴するのが、少し前に、物議を醸し出した曽野綾子さんの産経新聞のコラム(「労働力不足と移民」2015年2月11日付)です。

アパルトヘイト(人種隔離政策)を肯定するような見解が大問題となりましたが、コラムの趣旨は、外国人労働者の受け入れ問題についてであり、全体的に看過できない内容です。

(【安田浩一さんに聞く-2-】今そこにある日本版「アパルトヘイト」の現実につづく)

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